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1.『馬鹿にするな。』

「どうして、私がこんな目に遭わなきゃいけないんだか」


 自業自得だ、と怒られそうだけれど。


 私の腕の中には、猫が一匹。お世辞でも可愛いとは言えないと思う。デブだし、ブサイク。けっこう重くて、腕が疲れてくる。


 どうして私はこんな思いをしながら、コイツを抱えているのだろう。


 長袖のパーカを羽織っているからいいものの、腕には無数のミミズ腫れができているはずだ。これがなかったら、明日は引っかき傷で心配されなければならなかった。


 わたしを傷つけた張本人は、いまは静かだけど、まだ私に敵意を示している。


「猫は、嫌いなのに」


 猫だけではない。動物は全て嫌いだ。でも、猫は特に嫌い。なのに、どうして拾ってきてしまったのか。


 星空が綺麗だった。それが無性に腹がたった。大したミスではなかったし、上司に叱られるなんて日常茶飯事だったけど、その日はソイツが道端にいた。ダンボールの中で静かにこちらをにらむソイツは、私に似ていて、なんだか守ってあげたくなった。


 こんな気分は初めてだ。




「魚でいいでしょ。猫は魚が好きって、決まってるのよ」


 魚を二匹焼いて、片方をプラスチックの皿に入れた。入れてから、生のほうがよかったのかな、と思ったけど、猫の餌といえば乾いたキャットフード、の私には、よくわからない。とりあえずソイツの前においてみると、食べだしたので、これでいいか、と思った。全国の愛猫家の人から怒鳴られそうな所業だが、このとき私は疲れていたし、何より猫は好きじゃないのだ。


「見ればみるほどブサイクね、お前」


 猫は何を言っているんだ、という風に、ニャア、と鳴いた。確かに、私は猫の顔の優劣なんてわからないし、こうしてじっと見ていれば、「可愛い……のかもしれないな?」という疑念がわいてくる。もっとも、猫相手に、素直に謝る気にもなれず、私は猫から視線をはずし、自分の食事に集中した。



 さて、この猫をどうするか。


 自分がどうしてこの猫を拾ってしまったのか、そこがまだよくわからないのだが、とりあえず、また捨てるわけにもいかないだろう。運の悪いことに、私の住むアパートは、ペット可だった。住んでから知って驚いたのだが、実際に飼っている人などいないし、居心地の悪い場所ではないので、引っ越すのはやめていた。


「……ねえ、お前、生きたい?」


 ふっと思って、猫に聞いてみた。猫に意思を問うなんて馬鹿な話だ。やはりと言うべきか、猫は返事をしなかった。かわりに、ぺろりと口をなめて、こちらを見る。


 馬鹿にするな、と言っている気がした。


「いいわ、だけど名前はつけてあげないから。私たちはそんな関係じゃないでしょ?」


 飼い主とペットとか、家族とか、そういう温かい関係じゃない。


 きっと猫もそう思っているだろう。



 私は、猫を飼うことに決めた。

読んでくださってありがとうございます。


連日投稿できるように頑張ります。

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