君を落とすまで俺、帰らないから
『規則は――破る為にある』のつづきです。
こちらは一応人間×人間。前作と同じ女主人公です。
なんちゃって恋愛SFファンタジー。苦手な方はスルー推奨。
「・・・あ、あんたは・・・!」
わなわなと、その男を見て震える私を何と思ったのか。
にやり、と相変わらずの意地悪い目つきをしてその男は言った。
「オレもついて来ちゃった」
何が楽しいのか分からないが、にこにこと楽しそうに笑う。
「・・・ついて来たって。
あんた、仕事は?彼女だって沢山居たはずよね?一体どうしたのよ?」
「オレ、元々神出鬼没な男だと思われてるから大丈夫。
まぁ一応、今回は長期休暇を取って来たけどね。
あと、彼女なんて元々オレにはいないよ?遊びでたまに会ってた女の子なら沢山居るけどさ」
「じゃあ、なに。あんたは遊びであれだけ沢山の女の子とセックスしてたって言うの?」
「それはキミだって良く知ってるだろ。あっちではあれぐらいの付き合いはごく普通の事だよ。
あそこに居て、あんなに硬いことを言ってたのはキミだけだよ」
「私にとってはそれが常識なのよ!あんた達のふざけた文化と現代日本育ちの私を一緒にしないでよね」
「ま、それはそれでけっこう見ていて面白かったから別にいいけどね。
君の周りに居て勘違いして撃沈していく男どもを見るのがさ」
「・・・あんた、相変わらずね。それで、何でここに居るのよ?」
「いや~。アイツが向こうのシステム騙くらかして、キミについて行くって言うからさ。
オレも一緒について来たんだよね。面白そうだし。それにキミの言ってたことも確かめたかったしね」
そう言って、ウインクする気取った男を見て、ふと疑問が頭によぎる。
「・・・私の言ってたこと?いや、待って。でもあなた、アイツが私の目の前に現われたとき、何処にも居なかったじゃない」
「それは、元々アイツにキミが飛んだ座標とは別のところに飛ばしてくれって言ってたんだよ。
キミに会う前に色々ここでやってみたかった事もあるしね」
「やってみたかったこと?」
コイツの事だ。どうせロクなことではあるまい。
「キミ、言ってたじゃないか。私の居た所ではここみたいに彼氏や彼女が何人も居て、気に入れば即セックスするようなふざけた習慣は存在しないって。
だから、私は少し顔が整ってるからってあんたの誘いにホイホイ乗ったりなんて出来ないから諦めろって」
「・・・そんなこと、言ったかしら?」
「間違いなく言った。オレ、脳に取り付けてあるチップのデータベースにキミのそのセリフ、音声付きで記録してあるし」
そう言って自分の頭をトントンと軽く叩いて見せる男。
しかし、その内容は軽く聞き流せるものではない。
「・・ちょっ!なにくだらないものをわざわざ記録してんのよっ!!」
「え~。だって、キミの言うことって面白いんだもん。
オレ、キミと出会ってからキミとの会話は全部保存してあるんだぜ」
「は!?今すぐ消しなさいよ!」
「嫌だね~。ま、それはともかく、それを聞いてここに興味持ってたのさ。
だから、キミの言うことが本当か確かめてみようと思って」
「・・・確かめてみようと・・?まさか、あんた・・・」
「うん。まぁ、確かにキミの言ったとおり、硬い子が多いみたいだね。
まぁすぐに乗ってくれる子も結構居たけど。でも少し確立低くてびっくりしたよ~。
オレ、あんなに断られたの生まれて初めてだ!」
何か、とても感動したかのように瞳をキラキラさせて言う男。
内容が内容だけに激しくウザイ。
「なっ・・・!あんた、ここに来てまで一体何やってんのよ!
そんなの向こうで散々やって来たじゃないの!」
「だから、確認だって~。本気じゃないし、いいじゃん?」
「当たり前よ!そもそもあんたは向こうの人間じゃない。本気にされたらどうすんのよ!?」
こいつは向こうで生まれて生きて来た人間だ。
仕事だってある。色々とムカつく男ではあるがその仕事に付随する地位だってそれなりにあるヤツなのだ。
「そうそう、ビックリしたのがそれだよ。
たかがセックスで彼女面し出そうとする子が多くてビックリした。
最初はお茶だけで断ろうとする子がヤったあとにそういうの特に多かったなぁ。
・・・あ、でも、それで分かった。キミはここの人間だからじゃなくて特別なんだってことがね」
そう言ってこちらを見る眼差しが、何だかいつもと違うような気がして、どうしてか少し背筋に寒気を感じた。
「・・・何よそれ」
「だって~。ここの子達って、確かに初めてあったときは断る子も居たけど、その後何回か会ってれば皆オーケーしてくれたんだよね。
だから、やっぱりキミだけなんだ。オレを断るのって」
「それの理由は、前にも言ったはずだけど?」
「うん。聞いた。でも、キミも覚えてるよね?
オレが絶対キミを惚れさせて見せるって言ったこと。
それまだ実現して無いからね。途中で逃げ出されたらオレの戦歴に傷が付くでしょ?」
「な~にが戦歴よ!そもそもあんたが、やたらめったら無駄にモテてたのは!
あんたがかっこいいからじゃなくて、あんたのその能力で相手の考えてることが分かるから、乙女心がよく分かる貴重な男だって勘違いされてただけじゃないのよっ!!」
「それも、オレの一部でしょ。そもそもオレがモテる理由はそれだけじゃないし。
オレはこの顔に、誰もが羨む大企業『ヴィシエン』の幹部の地位を持ってる男だよ?
これだけ完璧なオレがモテない訳が無いんだよね」
うんうんと自分の言った寒いセリフに自分で納得してる目の前のふざけた男を見て、思わず殴りたくなった私は悪く無いだろう。
「そんな傲慢な性格であれだけモテてたのが、今考えてもホントに謎だわ。
あんたの周りの女、見る目が無さ過ぎ」
「失礼だなぁ。オレの魅力が分からないキミの方がオレには謎だよ」
「だから、何度も言ってるじゃない!あんたは私のタイプじゃないのよ!!」
「この顔のどこが駄目なのさ。天然でこれはなかなか凄いと思うんだけど?」
そうは言うが、向こうでその程度の顔など大して珍しいものでもなかった気がする。
こいつよりもずっと優しい素敵な性格で、顔のいい男がそれなりに居た事を私は知っている。
「天然だろうと人工だろうと、私はあんたの顔は好みじゃ無いのよ。
いい加減、諦めなさいよ!」
「・・・そう言われると、何が何でも惚れさせてみたくなるんだよね。
だからキミを落とすまでオレ、帰らないから」
そう言い、不敵に微笑むヤツの顔を見て。
くらり、と思わず眩暈がした。