子どもの頃に「大きくなったら結婚しようね」と約束した女の子が王女様だった
ジャンルに迷って異世界恋愛にしてしまいましたが、違ってたらすいません。
一応、恋愛を主軸にしているつもりです。
「タクトくんは大きくなったら何になりたい?」
5才くらいの頃だろうか。
孤児院の院長先生に聞かれた時、オレは即座に「騎士」と答えた。
「騎士になって、悪い奴らからみんなを守るんだ!」
「へえ、頼もしいわね」
「院長も悪い奴らに襲われたらオレがやっつけて助けてあげるね!」
「その時はお願いね、タクトくん」
「うん!」
「シャナちゃんは?」
オレと同い年の女の子。
白い髪をした幼なじみに、院長先生は同じように尋ねた。
「シャナちゃんは大きくなったら何になりたい?」
「私はタクトのお嫁さんになりたい」
「まあ、お嫁さんに?」
「だってお嫁さんになったらずーっと一緒にいられるもん!」
まさに不意打ちだった。
シャナちゃんのその言葉は5才のオレに深く突き刺さった。
「あらあらタクトくん。プロポーズされちゃったね」
「う、うん……」
思いもかけない言葉に戸惑ってると、シャナちゃんは心配そうにオレの顔をのぞき込んできた。
「ねえタクト、私がお嫁さんじゃ嫌?」
「そ、そんなことないよ! オレもシャナちゃん大好きだもん。ずっと一緒にいたい!」
「ほんと?」
「うん、ほんと」
「嬉しい! じゃあタクト。大きくなったら結婚しようね!」
「うん。約束だよ!」
指切りげんまんした次の日。
シャナちゃんは孤児院から王宮へと連れて行かれた──。
なんでも、王家の血筋を引いてることがわかったんだそうだ。
王様の何番目かのお妃様に恨まれ、赤ん坊の頃に連れ去られて孤児院の前に捨てられたらしい。
なんとも身勝手で残酷な話だ。
オレはたくさんの兵士に連れられていくシャナちゃんの後ろ姿を見送ったまま、ひとりで泣いたのだった。
※
それから20年後。
オレは剣の腕を磨き、王都の兵士になった。
少しでもシャナちゃんに近づくために必死に鍛錬した。
けれども孤児院出身であるオレは末端の兵士にしかなれず、王宮に入ることも許されなかった。
来る日も来る日も王都の端にある外壁の警備。
見張り塔から怪しい人物がいないかチェックし、魔物の存在があれば外に出て退治。そんな毎日を送っていた。
幸いオレには剣の腕があったようで、低ランクの魔物であれば一人でも十分倒せた。
王都の兵士はそれなりに家柄の良い者が多く、あまり手伝ってはくれなかった。魔物狩りなど孤児院出身の者にやらせておけと思っているのだろう。
おかげで魔物が何度も出没したときは休む暇もなく戦い、精神体力ともに疲弊した。
返り血いっぱいで詰め所に戻ると、ボンボンたちは飲み会を開いていて唖然としたものだ。
オレがやられて魔物たちが押し寄せてたらどうしてたのだろうか。
そんなボンボンたちも、2年の任期を終えて中央に配属されていった。
治安のいい王都内の兵士に大出世というわけだ。
いわば外壁の警備兵は実績づくりのための踏み台でしかない。
そしてそんな彼らの代わりにまた新しいボンボンがやって来る。その繰り返しを20年も続けている。
「一生、外壁まわりの掃除、頑張ってくださいね」
10歳も年の離れた後輩兵士たちに鼻で笑われながら、今日もオレは彼らを見送った。
ヤクラの花が満開になる季節。
いつものようにまた新しいボンボンがやって来るから早めに歓迎会の準備でもしなきゃな。と思っていると、警備隊長が険しい顔をしてやって来た。
「タクト」
「どうしたんですか? コスギ隊長」
コスギ隊長はオレよりも2つか3つ年下だが、この王都外壁警備の隊長だ。
他の者に比べると家柄は劣っているらしいが、着任早々隊長に就任した実力の持ち主である。
とはいえ名ばかりの隊長で、あと数年もすれば格上げされて中央に行くだろう人物だ。
そんなコスギ隊長が険しい顔をしている。
オレはなんとなく嫌な予感がした。
「先ほど王宮から連絡があった。シャナ王女がここに視察にくるらしい」
「え!? シャナちゃん……いえ、シャナ王女が!?」
「シャナ王女はこの国で唯一の正妃のご息女だ。不敬を買ってはまずい。そこで、この外壁警備兵で一番の古株のお前に案内を任せたい」
要は王族の相手は荷が重すぎるから代わって欲しいということか。
普段のオレなら渋々了承するところだが、20年ぶりにシャナちゃんに会えるという嬉しさでオレはすぐに頷いた。
「わかりました。シャナ王女の案内役は私が承ります」
「よろしく頼む」
コスギ隊長は心底ホッとしたような顔でオレの肩に手を置いた。
王女一行は、その数日後にやってきた。
まわりを複数の騎士に取り囲まれながら、白いドレスに身を包んだ一人の女性が詰め所に入ってくる。
シャナちゃんだった。
20年ぶりのシャナちゃんはものすごく綺麗になっていた。
白かった髪は透き通るように輝き、ふっくらしていた頬はシュッと細くなっている。唇は赤みを帯び、憂いを帯びた瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいる。
当時は5才くらいだったから、今は25歳か。あの時のあどけない笑顔とは一転、目の前のシャナちゃんは聖女のような美しい微笑みを浮かべていた。
シャナちゃんはオレに目を向けると、嬉しそうに顔を輝かせて今にも飛びついてきそうな気配を漂わせていた。子どもの頃はオレにべったりだったから、グッと堪えてるのがわかる。
オレも思わず抱きしめたくなって慌てて自制心を保った。
知った仲だが、今は立場が違う。気軽に触れられる相手ではない。
お互いに見つめ合っていると、その視線を遮るように近衛兵が正面に立った。王女をあまりジロジロ見るなということだろう。厳重すぎるほど厳重な警備体制だった。
そんな近衛兵が低く威圧するような声で言った。
「貴様がここの責任者か?」
若干、見下してるようにも感じられた。
オレは自分の立場を瞬時に理解して咄嗟に頭を下げた。
「申し遅れました、自分はここの城壁を守る門兵でタクトと申します。責任者ではありませんが、ここに一番長くいるので今回案内役に任命されました」
「ふん、下っ端か。シャナ殿下直々の視察だと言うのに、下級兵士が対応するとはな」
ずいぶん高圧的な態度だなと思った。
王宮勤めの兵士ならそれなりに礼節をわきまえてるものだと思っていたのだけど、意外とここと変わらないのかもしれない。
まあ、王女の近衛兵といえばエリート中のエリートだ。きっと身分の高い者なのだろう。
オレはすぐに謝罪した。
「それは大変失礼しました。私のような者が案内役となってしまい、まことに申し訳ございません。もしお気に召さないようであれば別の者にご案内させますが?」
オレの言葉に、近くに控えていたコスギ隊長の身体がビクッと震えるのがわかる。
今ならコスギ隊長がオレに案内役を任せたかったというのが理解できる。
これは確かにものすごい緊張感だ。
けれどもそんな殺伐とした空気をシャナちゃんが破った。
「カイン、そんなことを言ってはいけませんよ。このたびの視察はわたくしが自ら望んだこと。誰が対応するかなど気にしてません」
「ですがシャナ殿下……」
「それに彼らはこの王都を守ってくれてる立派な兵士でしょう? むしろ感謝するべきでは?」
「感謝ですと?」
驚愕の表情を浮かべる近衛兵の背後から、シャナちゃんがお礼を言った。
「タクトさん、いつもこの街を守ってくれてありがとうございます」
姿は見えないけれど、心から労っている雰囲気が見てとれる。
「いえ、この王都を守ることこそが我々の使命ですから」
そう返事をするとシャナちゃんが「ふふ」と笑った気がした。
20年ぶりの会話。
立場的に仕方のないことだが、久しぶりすぎて他人行儀になってしまったのがオレにとっても可笑しかった。
昔は何でも言い合える仲だったのに。
でもオレとシャナちゃんのそのやりとりにカインと呼ばれたその近衛兵は嫌悪感をあらわにした。
「おい、貴様。タクトと言ったな? たかが門兵のくせに我々の許可なく王女殿下と直接の会話はするな。どうしても伝えたいことがあれば我らが間に入って行う」
つまりシャナちゃんとの会話はこの近衛兵を通して行うということか。
なんとも面倒くさいものだな、王族というのは。
少しだけシャナちゃんに同情してしまう。
けれどもシャナちゃんは引き下がらなかった。
「カイン、それはあんまりではなくて?」
「シャナ殿下?」
「わたくしは彼と直接話したいの。誰かを通して自分の意見を伝えたいとは思わないわ」
「ですが……」
「カイン。いいから下がりなさい」
毅然とした声に、カインは怖い顔をしながら後ろに下がった。
改めて前に出てくるシャナちゃん。
当時は背格好が同じくらいだったけど、今ではオレの方がちょっと高い。
シャナちゃんが見上げるような感じになってしまったので、慌てて膝をついた。
「シャナ王女殿下。お会いできて光栄です」
「わたくしもです、タクトさん」
まるで他人行儀な挨拶だ。
それが逆に可笑しくて、オレとシャナちゃんは見つめ合ったままお互いに笑いあった。
「それでは案内をよろしくお願いします」
「はい、どうぞこちらに」
こうして外壁の一部を案内することになった。
もちろん外には出さない。安全な場所だけをぐるっと回る。
シャナちゃんはオレが説明する内容を面白おかしく聞いてくれた。
「これはどういう作りになってるの?」
「これはですね、金属の歯車がこうして噛み合って門の開け閉めを行っているんです。以前は人力だったのでものすごく簡単になりました」
「すごい! これを発明した人は天才ね!」
「自分もそう思います」
「あれはなに?」
「あれは鐘の音を反響する装置です。魔物が襲来してきたら見張りが鐘を鳴らすんですが、大きな音が出るようにラッパ状になってるんです」
「すごい」
「先人の知恵です」
「じゃあ、あれは?」
「あれはですね……」
シャナちゃんとの会話は楽しかった。
当初は王女様然とした話し方だったのが、いつしか当時のような砕けたしゃべりになっていた。
オレもそれに合わせて普通に話したかったが、シャナちゃんが顔を輝かせる度にカインたちが睨むものだから敬語をやめられなかった。
彼らは彼らで、王女であるシャナちゃんが下級兵士に屈託なく話しかけるのが許せないのであろう。
そうこうするうちに、シャナちゃんの予定時刻がだいぶ過ぎてしまったようで、カインが苦言を呈してきた。
「シャナ殿下。そろそろ王宮に戻りませんと……」
「ああ! ほんとに! もうこんな時間!」
王都の中心部に建てられた時計塔を見て声をあげる。
「それではタクトさん、案内をありがとう」
「こちらこそ、王女殿下に自分たちの職場を見ていただけて光栄でした」
「またお伺いしても?」
「もちろんです」
オレの言葉にパアッと顔を輝かせるシャナちゃん。
久しぶりにこの笑顔を見たなと思ったオレは、心の底から嬉しくなった。
それからというもの、シャナちゃんは頻繁に視察に来るようになった。
相変わらず大勢の近衛兵を引き連れているが、当初のように視界を遮ることもなくシャナちゃんの自由にさせている。
ただ、近衛兵たちはオレがシャナちゃんと話しているのを毎回不機嫌そうに見つめていた。カインにいたっては殺気のこもった目で睨んでいるほどだ。
それでもオレはシャナちゃんと話せればそれでよかった。
末端の兵士と王女という関係だけど、シャナちゃんはまったく気にせず昔のように話しかけてくれる。
それがたまらなく嬉しかった。
そんなある日のことである。
いつものようにシャナちゃんが視察に来ると、魔物の襲来を告げる鐘の音が響き渡った。
「何事ですか?」
「どうやら外壁まわりに魔物が現れたようです」
「ま、魔物!?」
魔物というワードに近衛兵たちが動揺する。
明らかに狼狽していた。
「ま、魔物というと、アレだろ? 獣よりも獰猛で凶悪な化け物だろ?」
「生身の人間だと太刀打ちできないと聞いたぞ?」
「この人数でなんとかなるのか?」
動揺は動揺を誘い、外壁警備兵たちもざわつき始めた。
そこでカインが彼らを一喝した。
「お、落ち着け! シャナ殿下を守るために円陣を組むのだ!」
その言葉に近衛兵たちが一斉にシャナちゃんを取り囲む。
実際は魔物は外壁の外にいるのだからここで円陣を組んでも意味はないのだが、魔物に慣れていない彼らにとっては未知の状況なのだろう。
「お、おい、タクト! 門兵なら魔物退治は貴様らの仕事だろう! 我々はここでシャナ殿下をお守りしているから、とっとと退治してこい!」
あれだけ高圧的態度をとっていたカインや他の近衛兵たちの腰が明らかに引けている。
「タクト……」
彼らの不安が伝播したのか、シャナちゃんも怯えた表情でこちらを見た。
自分の主君を不安にさせるなんて近衛兵としてどうなんだと思ってしまうのだが、きっと今まで実戦など経験せず適当な訓練しかしてこなかったのだろう。
オレは安心させるように言った。
「大丈夫だよ、シャナちゃん。オレが退治してくるから」
「タクト」
「子どもの頃に言ったろ? 大きくなったら騎士になってみんなを守るって」
「うん、覚えてる」
「魔物退治なら慣れてる。ここで待ってて、シャナちゃん」
「う、うん!」
そう言ってオレは外壁の外に向かって駆け出した。
思わず敬語を使うのを忘れてしまったが、今はそれを考えるのはよそう。
魔物の数は多くはなかった。
十匹ほどの狼に似た獣。
相も変わらず誰も討伐に出てこない。
まあ、この程度ならオレ一人でなんとかなるだろう。
襲いかかって来る魔物をかわしつつ、一匹ずつ確実に仕留めていく。
正直、たいしたことのない相手だが、オレが魔物を倒す度に外壁の上から状況を見ていた近衛兵たちから声があがっていた。
「おお! すごい!」
「あ、あいつ、あんなにも強いヤツだったのか! 凶悪そうな魔物をいとも簡単に……」
「まるで騎士団長レベルじゃないか!」
騎士団長がどれほどの強さかわからないが、魔物討伐が日常茶飯事になってるオレにとっては準備運動にもならない。
やがてすべての魔物を倒すと歓声があがった。
その中心ではシャナちゃんがホッとした顔でオレを見ていた。
※
「タクト!」
魔物退治から戻るとシャナちゃんが駆け寄って抱きしめてきた。
「シャナちゃん」
「大丈夫!? どこもケガしてない!?」
「見てたろ? 大丈夫、かすり傷ひとつ受けてないよ」
「ほんとに!?」
「ほんとに」
泣き出すシャナちゃんの背後からカインたち近衛兵がやってきた。
「タクト殿!」
下っ端兵士と言っていたのに、いきなりタクト殿なんて呼ばれるから驚いた。
そんなカインはオレの前で頭を下げた。
「突然の魔物の襲来で取り乱してすまなかった。まさかあそこまで皆が動揺するとは」
「魔物の襲来なんて中央ではありませんからね。仕方ないですよ」
「貴殿の戦い、この目でしっかりと見させてもらった。なかなかに凄まじかった。現場の人間があそこまで強いとは思わなかった。今までの非礼は詫びよう。貴殿はまさしく騎士に匹敵する実力の持ち主だ。そしてこの王都をいつもああやって守っていてくれたことに感謝する」
カインの言葉に他の近衛兵たちも一斉に頭を下げた。
「い、いえ、よしてください。王都を守るのが私の役目なんですから」
「魔物と聞いて腰が引けてしまった自分たちが情けない」
「カイン様もシャナ王女殿下を守るのが役目なわけですし、彼女の側を離れないでいてくださってありがとうございます」
そう言うとカインは照れくさそうに笑った。
「それにしても魔物退治を貴殿ひとりに任せるとは。ここの兵士はタクト殿以外は戦わぬのか?」
「まあ、他の人には門を守ってもらってますから」
「それではいかん。貴殿がいなくなったら誰も戦えぬではないか。我らも実戦を経験して心身共に鍛えねばと学んだ。すぐに上に報告して実戦経験を義務化するなり対策をとるとしよう」
おそらく上級貴族の出身であろうカインが言うのだ、すぐに取りかかるだろうな。
「それよりもだ……」
そしてカインがちょっと言いにくそうに口ごもった。
「な、なんでしょう?」
「貴殿はシャナ殿下とどのようなご関係なのだ?」
「へ?」
「子どもの頃の話をしていたようだが……」
やっぱり聞かれてたか。
オレはシャナちゃんに目を向けると、彼女は照れたように笑った。
「タクトは孤児院時代の幼なじみです」
「シャナちゃん!」
「平気よ、タクト。私が孤児院に入れられていたのはみんな知ってるから」
一国の王女が孤児院にいたという事実は、世間一般にはあまり知られていない。王家にとっての弱みとなるということで、孤児院含めオレにもその情報を隠すよう王命を受けていたからだ。
けれども彼女の近衛兵である彼らはどうやら知っていたらしい。
オレはホッと胸をなで下ろした。
「な、なんと! ではタクト殿とシャナ殿下は旧知の仲だったわけか! これは今まで数々の無礼を許してもらいたい!」
今度は一斉に膝をつき始める近衛兵たち。
それを遠目に見ていたコスギ隊長以下外壁警備の仲間たちがポカンと見つめている。彼らには何が起きているのかわからないだろうな。
「これで腑に落ちました。シャナ殿下がここの視察をずっと熱望されていたわけを」
「カイン!」
シャナちゃんが顔を赤く染めて声を上げる。
「それにしても子どもの頃の会話を覚えていたとは……。シャナ殿下にとってタクト殿は特別な存在だったらしい」
言われてオレは「あっ」と声をあげた。
「シャナちゃん、そういえばあの時の約束……」
瞬間、シャナちゃんは顔をさらに真っ赤に染めて「わああ!」と叫んだ。
「ダダダ、ダメ! ここでは絶対言わないで!」
「あ、ごめん」
慌てて口をつぐむ。
そりゃそうだな。
口約束とはいえ王女と結婚の約束をしてしまったなんて知られたら大事になるよな。
「でも覚えてくれてたんだ」
「そりゃそうだよ、オレにとっての初めての……アレだったし」
プロポーズという言葉を飲み込む。
シャナちゃんはそんなオレに「嬉しい」と微笑んだ。
「ねえ、タクト。今でもあの時の約束は有効……かな?」
「もちろんだよ。シャナちゃんが無効にしてない限りは」
「無効になんてしない! 絶対しない!」
そう言ってシャナちゃんは握りこぶしを作った。
こういう頑固なところは昔のままだ。
「タクトは立派な兵士になってみんなを守る存在になったし、今度は私の番だね」
「シャナちゃん?」
「タクトとの約束を果たすために、私も頑張るね!」
「うん、待ってる」
そう言ってオレはシャナちゃんと20年ぶりに指切りげんまんをしたのだった。
その後。
外壁の警備は実戦経験を積ますことが義務化され、中央に行ったボンボンたちは外壁警備の任務に再び戻された。
オレが王女の幼なじみと知って、戻ってきたボンボンたちは青ざめた顔をしながら今までの非礼を詫びていた。
「一生、外壁まわりの掃除、頑張ってくださいね」
と言っていたボンボンにいたっては、
「許してください、お願いします! 謝りますから、父には言わないで!」
と泣きながら土下座していた。
父が誰かも知らないし、オレにはなんの権限もないのだから謝られても意味はないのだが、オレは適当に「はいはい」と言っといた。
そして今後、中央への派遣は外壁警備の働きによって決まるようになったらしい。みんな競い合うように真面目に働くようになった。
その中にはシャナちゃんの近衛兵だったカインも混じっていた。
オレはカインの代わりにシャナちゃんの近衛兵に大抜擢され、常に彼女のそばにいることとなった。しかも王族の側近ということで騎士の称号まで授かった。まさに子どもの頃の夢が叶った瞬間だった。
「タクト、ごめんね。今日も王族として地方の視察なの。付いてきてくれる?」
「シャナちゃんの近衛兵なんだから、どこまでもついてくよ」
「うふふ、よろしくね。私の騎士様」
毎日大忙しのシャナちゃんに付き従ううちに王様の信頼を得るようになり、彼女と結婚することになるのはそれから2年後のことである。
お読みいただきありがとうございました。
ジャンルがハイファンタジーか異世界恋愛かで迷ったんですが、王女様と兵士との身分差を描きたかったので異世界恋愛にしました。
違ってたらすいません(汗)




