"氷戯"(前編)
僕の身近の様々を行う執事は、背丈こそとても低くて僕くらい小さい程だが、能力に関しては人一倍のものが有る
彼は僕が氷塊から自作した魔法生物で、姿形こそ幼いが、一般的成人男性の数倍の知性を擁して居る
その為、彼は書類上は成人男性としての扱いだ
肉躰的にも実際的にも子供で在るものを、こう扱う行政や立法の愚昧さを感じるが、自分が損をして居ないので殊更には気にならない
とにかく僕は今日、彼と街に出掛けて居た
発明街には様々な用途不明の道具が陳列され、そのいずれにも高価な値段が付いて居る
そしてそれが、然程の時間を経ずとも売れていくのも発明街の特徴でも有った
少年執事が平素の知性的な姿を捨てて、仔犬のようにそれをきょろきょろと視て居る
僕は、彼がとても愛おしく思えた
「旦那様」
「今日は、何をお求めにここへ来たのですか?」
問われて僕は、「道具は買わない」と答えた
端的に言うと、ここに来たのは加工の為だった
路地を抜けた先に、この街に住んで居る人間でも知る者の少ない店が在る
照り付ける陽射しを防ぐ機械傘と、その下には涼やかな銀線細工の丸机、そして幾つかの椅子が並ぶ
食堂の、露壇だ
掛けると、店主が盆を持って現れる
盆上の二つの皿には、それぞれ新雪の様なさらさらとした薄い氷が盛られ
そこに、月のように紅い糖液が散らされて居た
「旦那様、これは………?」
「東洋の菓子だ」
「───今日は暑いだろう?」
店主が一礼して去る
僕は雪のようなそれに銀匙を埋め、掬って口に運ぶ
糖液に上等な苺を惜しげも無く使ったらしく、甘さは舌の上で大きく広がったあと、不快感に変わる前にすっきりと通り抜けていった
美味だと思う
執事の彼も同じ気持ちだったらしく
視ると、眼を細め唇の両端をうっすらと上げた表情をして居たが、僕の視線に気付くと、あからさまに同様しながら氷を淡々と食べ始めた
「───どう思う?」
「僕自身も氷ですので、複雑な気持ちではありますね」
無味乾燥な言葉が往復する
しかし、『執事自身も氷だ』という事実は、この場の本題でもあった




