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第2話「悪役令嬢ミレーヌの目覚め」

……暗い。


雨の音もしない。

さっきまで、確かに――

“お姉ちゃん”が、自分を抱きしめてくれていた。


その温もりだけが、まだ胸に残っている。


まぶたの裏に淡い光が差し込み、

沙良はゆっくりと瞳を開けた。


視界に広がったのは、

天蓋つきの豪奢なベッド。

白いレース、薔薇の刺繍、黄金色のカーテン。

どこかで見た、“物語の世界のような部屋”。


「……ここ、どこ?」


体を起こすと、深紅のドレスの袖が滑り落ちた。

見覚えのない優雅な布地。

白く細い指。


鏡の前に立った沙良の息が止まる。


――そこにいたのは、漆黒の髪を巻いた少女。


深紅の瞳は夜のワインのようで、

表情は冷ややかで美しい。


「……これ、わたし……?」


だが、鏡の少女の名前を、沙良は知っていた。


ミレーヌ・ド・ロズベルク。


乙女ゲーム

『セラフィナ・クロニクル ~運命の聖女と黒薔薇の令嬢~』

に登場する “悪役令嬢”。


(……覚えてる。全部、覚えてる……)


沙良は胸を押さえた。


✔ 聖女リディアのルート

✔ 攻略対象8人のイベント

✔ 王太子との断罪式

✔ 黒薔薇イベント

✔ 隠しルートの分岐

✔ そして――ミレーヌのすべての破滅


どのルートでも、

ミレーヌは必ず“破滅”を迎える。


火刑。

投獄。

国外追放。

断罪式。


救済ルートは一つもない。


(なんで……よりによってこのキャラに……)


そのとき、扉の向こうからノックがした。


「ミレーヌお嬢様、朝のご支度を」


ロズベルク家の侍女。

沙良は息を呑む。


(……始まる。

ミレーヌ編の序章……舞踏会から破滅フラグが動き出す)


震える指先を抑えながら、鏡に映る自分を見つめる。


その瞬間――

胸がぎゅっと締めつけられた。


“あの夜、お姉ちゃんが抱きしめてくれた温もり”。

“泣きながら笑ってくれた、あの優しい顔”。


全部覚えている。


忘れようとしても、

その温かさだけは胸の奥から離れてくれない。


でも――


(……お姉ちゃんは、もういない。

あの事故で……もう、どこにも……)


喉が震えた。


だからこそ、

あの温もりを思い出すたびに胸が痛む。


(もう一度……会いたい。

どこにもいないって分かってても……)


でも願いは届かない。


現実(ここでは“別の世界”)は、

沙良に残酷な役割を与えている。


今の自分は――

ミレーヌ・ド・ロズベルク。


“聖女リディアを妬む悪役令嬢”。

破滅へまっすぐ転がる運命の少女。


(でも……わたしは絶対に破滅しない。

お姉ちゃんが守ってくれた命なんだもん……)


沙良は鏡に映るミレーヌを見つめ、

ゆっくりと拳を握り締めた。


「……この世界がどうなっても。

私だけの生きる意味は……絶対に失わない」


深紅の瞳に、

静かな決意が灯る。


薔薇の香りが風に揺れ、

運命の幕が――静かに上がろうとしていた。

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