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第11話「黒薔薇の兆し(沙良編)」

昼下がりのロズベルク邸。

中庭に差し込む光が、黒薔薇の花弁をゆらりと照らしていた。


ミレーヌ――沙良は、椅子に腰かけたまま

胸元の黒薔薇のブローチにそっと触れた。


「……また光ったわね」


朝方、一瞬だけ感じた温かな脈動。

夢や気のせいではない。

確かに、胸の奥に“誰かの感情”が触れたような感覚だった。


(呼ばれた気がした……でも、誰に?

この世界に、私を呼ぶ人なんて……)


ふと、胸の痛みがじわりと広がる。


夢に出てくる、涙を流す女性。

見たことがないはずの顔なのに、

その悲しみだけは強烈に胸へ落ちてくる。


「……どうして、こんなに苦しいのかしら」


沙良はそっと目を閉じた。


その瞬間――


(……たす……け……)


声というより“感情”だった。

震える祈りのような、

胸の奥に直に触れてくる微かな気配。


誰のものかも分からない。

なのに、どうしようもなく沙良の心を締めつけた。


「……誰なの……あなたは……」


黒薔薇のブローチが、かすかに熱を帯びる。


ちょうどその時、扉がノックされ、

執事のルシアンが姿を見せた。


「お嬢様、教会より文書が届きました。

“黒薔薇の印は動きつつある”……とのことです」


「動きつつある……?」


沙良は顔を上げる。


「はい。どうやら聖堂の北塔で、

古い“黒薔薇の痕跡”が確認されたようです」


(北塔……

あの痛みと同じ“気配”があるのかもしれない)


胸の奥のざわめきが、答えるように強くなる。


沙良は小さく立ち上がった。


「……行かなくちゃ。

黒薔薇が何なのか、確かめるわ」


ルシアンは深く頷く。


「お供いたします、お嬢様」


中庭の黒薔薇が、風に揺れて影を落とした。

その影は遠い聖堂で祈る理奈の胸の痛みと、

静かに呼応して震えていた。

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