勉強会
「姉さん、こんにちは。」
「さあやのほうが早いのは珍しいわね。」
さあやは少し視線を逸らしました。
「光花禰宜が…」
「新しい禰宜だったよね。どんな人なの?」
ここは巫女だけの巫女国なので、たとえ神官であっても入ることはできません。
だから外のことは話に聞いて知るしかないのです。
「厳しいけど、優しい人。
あたしが子供らしい振る舞いをするのにいつもは付き合ってくれるけど、儀式とか礼儀については厳しい」
たまきとみるはいい人そうでよかったと胸を撫で下ろしました。
二人とも最年少のさあやのことは本当に可愛がっていました。
『それこそ妹のように心配してくれて、さあやは二人のことが大好きだった。』
「みる、私少し孤児院について考えてきたわ。
いくつかの地域に巫女直轄の孤児院を作ればいいと思うの。
そこをモデルとして孤児院を作ることを推奨する。もしくは、孤児たちが直轄のところまで来られるように制度を確立する。
ただ…」
たまきはそこで言葉を切りました。
「続けて。」
たまきは一瞬みるを見てから口を開きます。
「代替わりの後も続く保証はないわ。それに、面倒を見きられるかどうか。
大きくなった後のこともあるでしょう?」
たまきはこの後のことも考えていたのです。
「招光帝国では、孤児院は神殿の業務として確立されている。
いっそ組み込むのは?」
「やれるだけ、やってみるね。たまきのところはどうなの」
たまきは少し思案しました。
「…皇位継承争いで拡大したから、むしろ孤児院の方が余っているわ。」
あまりいい理由ではありません。
行動理由が義務でも仕事でもなく私利私欲のためで、争いがなければ放置されるのが目に見えていますから。
「あ、たまき、継承順位はどうなったの?」
「六位に下がってしまったわ。最近体調を崩しがちでねっ…」
たまきは笑いを押さえきれないといった風で言いました。
「良い結果?」
「想像以上よ。みる、ありがとう。」
みるは照れ臭くなって、お菓子に手をつけます。
「さあ、みんなで授業をしましょう。」
まず何故かたまきと盤上遊戯をやらされてからそれぞれの得意分野の教え合いが始まります。
たまきは立ち居振る舞い、さあやは舞踊など巫女として必要とされるもの、みるは一般教養をそれぞれ教えます。
さあやとみるには立ち居振る舞いが足りず、みるは巫女としての教養が足りず、さあやには一般教養が足りませんでした。
本を読んでそれをまとめたり、実際に動いたり、木に登ったりしました。
「これを読んでおいて」
とりあえず最優先されたのはさあやの担当する巫女の授業でした。
巫女としての儀式などがあるのにまずこれができないと話にならないからです。
立ち居振る舞いは、最悪の場合まだ幼さでなんとかなります。一般教養も同様に。
けれど、巫女としての教養は別です。
「こんなに幼いときに巫女の座を継承した事例は稀。
他には、先代が殺された時ぐらい。そのときでも三人とも幼いということはなかった」
「今が異常だって言いたいの?」
さあやは頷く。
「最悪の場合、継承がうまくいかない。みるの事例がそう。神さまは、何を考えているのかな」
上を飛ぶ烏が頭上で一度旋回して遠くに飛んでいきました。
「考えてもきりがないわ。私たちは、今を生きていくしかないのだから。」
さあやは押し黙って頷きました。
「どこで読んだの?」
たまきの言葉に違和感を覚えたみるはたまきに詰め寄ります
「…これよ」
差し出したのはみるの持っていない本。
「借りてもいい?」
「構わないわ。次返してくれるのなら、ね。」
やったあと言っていそいそと本をしまいます。
その日はそれでお開きになりました。




