貸し借りの関係
「この間ぶり、かしら?元気にしていた?」
二人はそれぞれ間を空けてから頷いた。
「なんなの、その間は。」
じとっと視線を向けられたので、アイコンタクトで譲り合ってからみるがくちを開く。
「孤児がたくさん亡くなってしまったの。冬のたびに、毎年たくさん」
「寒国の冬は厳しいものね。そればっかりは福祉制度を充実させるしかないわね。」
たまきはさくさくと返事をしていく。
たまきは決して真面目に考えていないわけではなかった『…おそらく。』
ただ自分の問題に手一杯なだけで。
「私に、側仕えのような人ができた。」
さあやは衝撃的なことを言った。
「…猫とかじゃなくて?」
「禰宜だって、言ってた」
巫女は信仰の対象になるため、基本的に一人で過ごす。
色々なことに巻き込まないようにするという配慮からきていた…らしい。
形骸化して、巫女は側仕えを置かないというのがルールになってはいたが、絶対に置いてはいけないというわけではもちろんなかった。
「光る花と書いて、こうかという女の人。
どう接すればいい?」
「本人が禰宜と言ってるのなら、神官と同じでいいんじゃない?」
禰宜は大雑把に神官だ。なら、神官として接しても問題はないだろうという考えからだ。
「本題に入ろう。私、少しはたまきのこと考えてきたんだよ。」
みるが自信たっぷりに場を切り替えた。
「というと?」
「たまき、体が弱くなればいいの。
体が弱いって言って、その言い訳を使って公式行事を欠席するの。」
みるはどうと自信満々に微笑む。
たまきはいいかもしれないと呟いた。
「なら、お礼にあなたのことについても考えましょうか。孤児ね。」
たまきはそういう交換を重んじる人だった。
『あのころは冷たいと思っていたが、今となっては皇族としての立場故のものだったかもしれないと思う。
何も対価なしに受け取るのみでは、自分が殺されてもおかしくなかったから。』
「巫女だから簡単なのではない?寒国にとって、王に等しい権限を持っているのは巫女だときいたことがあるわ」
確かに、寒国においては巫女は唯一全ての豪族長がその発言に従う可能性がある立場だ。
怒りを買って火を止められたら困るという損得勘定があってのことだったが、確かに王に等しいと言えるだろう。
「下手に権限を使うわけにはいかないよ。」
それもそうねとたまきは納得した。
「次までに考えておきましょうか。
さあ、お菓子でも食べましょう」
さあやが水を得た魚のように元気になってお菓子に手を伸ばす。
「さあや、もうそれ三つ目でしょう?私たちにも少しはくれないと。」
「…半分こする?」
「半分は食べるんだね!」
結局どんなに立場が特殊でもどんなに威厳があってもどんなに頭がよくても、ここではただの十歳に満たない幼い女の子たちだ。
この時はなぜかお菓子を取り合って、歌合をすることになった。
結果はさあやの圧勝。
「強いわね。教えを乞いたいぐらいよ」
「詩歌って、どう作るの?」
二人とも巫女として暮らしているためそれらの教養が欠けていた。
「よし、今度からはみんなで集まったときは情報交換とか知恵の貸しあいに加えて得意なことを教えていきましょう。」
「私たち、まだ人に教えられるほどことを修めてはいないよ?」
むしろ十やそこらでその域に達しているのなら驚愕だろう。
「いいのよ。だって、巫女になってから、人に教えられたことはある?」
その答えは、いいえだった。
全ての先生を取り上げられて、巫女としての知識とそれまでの学習のみで今までやってきたのだから。
俯く二人の反応を見てたまきはどこか納得したように頷いた。
「なら、知ってることを教えるだけでも違うでしょう?」
『いつだったか、お菓子をとりにやってきた虫を見つけたさあやが片手に手にした紙で叩き潰した。
それでも、後から後から虫がやってきた。』




