冬火
ーーーー冬火ーーーーー
寒国は寒い寒いところで、一年の三分のニほどは雪と氷に閉ざされます。
人々は引き篭もる時間が長い故に、手工業の細工品が発展しておりました。
各地は豪族が治めており、特定の王は存在しません。
私はそんなある豪族のうちの一つの娘として生まれました。
私の生まれた豪族一家は、支配者でありながら民との交流を大事にするところでした。
私自身小さな時から近所の子供達と一緒に遊んでいました。
領地が寒い寒国の中でも特に寒く、神殿からも遠く火が手に入りにくく協力して生きていくしかなかったことも大きな要因だったと思います。
寒国では、火の巫女が焚き火を各家庭にもたらしてくれていました。
寒いのもありましたが、寒国ではどう頑張ったところで火がつかなかったのです。
てすから、巫女の存在は必要不可欠なものでした。
決まった王のいない寒国で、唯一人々が命令に従う人でもありました。
けれど、地方の一豪族の3番目の娘には関係のないことでした。
ただ日々の生活をする分には何も困らなかったのです。
「るり、遊ぼう!」
「お勉強が終わったらいく」
私は詩歌が得意でした。
詩歌に表される繊細な心の揺れ動きを読み取るのがとても楽しかったのです。
「お待たせ、じゃあ…」
「やめなさい、るり」
いつものように勉強を終わらせて奥の洞穴に行こうかそれともかまくらを作ろうかと考えていると、父に止められました。
「今巫女様が来ておられる。お帰りになられるまで、るりは中にいなさい」
「父様…」
「るり」
庶民的とは言いつつもこの地の支配者である父の言葉は絶対でした。
私は大人しく父の言うことに従いました。
七歳の頃だったと記憶しています。
「そこの、ちいさな女の子はなんと言う名で?」
「るりでございますか?この家の三女でございます。何か気に障るようなことでもありましたか?」
巫女様は、火の巫女という名前に反して火のような雰囲気は微塵もない人でした。
私は先代の名を、正式な名を知りません。
しかし、彼女は私を次期巫女として引き取りました。
何の予告もなく、目が覚めるとすでに馬車の中で抗いようはありませんでした。
そうして神殿についてから、私はさして時が経たないうちに巫女を引き継ぎました。
先代が亡くなってしまったからです。
ゆえに私は大した知識の継承などは行なっておりません。
その点では他の巫女に劣ると言えます。
けれど、私は家族と会うことが許されていました。
本当の名前も残っています。
巫女名として冬火と名乗ってはいますが、るりやみると呼ぶ人の方が多いほどです。
私にお茶会の招待状が届いたのは、巫女を引き継いですぐの頃でした。




