木蓮という妹(たまき)
「これより、皇後継者争いを開始いたします。」
監視人の声掛けで、集まった皇女皇子達の緊張が一層高まりました。
「それでは、一枚紙をお引きください。」
継承順位が高い方から順に閉じられた紙を引く。
「そちらに書かれた内容が、皇選抜での課題となります。期限は一月後。それでは皆さま、お気をつけて」
これからは争いが激化することでしょう。
そう、騎士団長補佐であり国の中核を担った第二皇子のお兄様が毒殺されたよりも、その同胞の第四皇子がいまは修道院に入っていることよりも過激なことが。
「木蓮」
わたくしは紙を開くこともせず懐に仕舞いました。
「はい、お姉様」
木蓮はわたくしの同胞の妹です。
他にもわたくしたちの実の母である第四側室には子供がおりましたが、いずれも歳が離れておりました。
そのため、この段階で継承争いに加われる年齢に達していたのはわたくしと木蓮の二人だけでした。
「木蓮の課題はなんでしたか?」
木蓮はにこにこと可愛らしい笑みを浮かべたまま紙を差し出してきました。
「協力するなとは言われませんでしたもの」
わたくしは木蓮から紙を受け取り中を見ました。
「お姉様の課題はなんでしたの?」
けれどわたくしは答えずに木蓮に紙を返しました。
「木蓮、これをどうやって解決するつもりですか?」
「お姉様にお教えする意味はなんですの?」
木蓮は即座に返してきました。
わたくしはそれに少し安心いたしました。
「それが言えるのであれば問題はありませんね。」
わたくしは木蓮の耳に顔を近づけました。
「わたくしは、木蓮を皇にしようと思っております」
「なぜですの?」
木蓮は全く表情を変えずニコニコしたまま聞いてきました。
それだけで、わたくしにはこの可愛らしい笑みが作り物だとわか離ます。
「木蓮はそうやって疑うことや表情を変えないことができますでしょう?
外交にとってそれは必要なことですわ。
勉学でも良い成績でしたもの。
皇になられてからはわたくしが足りないところを補佐いたしますわ」
つまり、傀儡になれということです。
外交はやらせるが、皇としての最低限ができるだけでは足りないのでわたくしに任せろということです。
「わかりましたわお姉様。お姉様が傀儡になれとおっしゃるのなら、木蓮は喜んでなりましょう」
木蓮はにこにこ笑っている。
けれど、それはわたくしも同じこと。
「木蓮、部屋を移りましょう。わたくしの巫女殿においでくださいませ」
木蓮はわたくしのうしろについて、妹弟を見ている母親には見向きもせず巫女殿に向かいました。
「お姉様、これからどうなさるのですか?
木蓮が自力で行ったところでなにもできませんのに」
部屋につくなり木蓮はそう尋ねてこられた。
「あら、なにも木蓮が前に出る必要はありませんわ。
他の者が後ろに下がれば自然と木蓮が前に出ますわ」
わたくしはそのために手を回す。
「木蓮は精一杯課題をこなしてくださいませ。
ただし、原則としてわたくしと一緒に行動すること。
わたくしは巫女ですから、ある程度の命の保障をされております。
けれど木蓮はただの皇女ですから」
これからどんなことが起こるか全くわからない。
「わかりました」
一緒にいることでわたくしが木蓮を推しているということを知る人も増えるでしょう。
「お姉様、お母様にはお会いなさりますか?」
「…第四側室様は、わたくしの母ではありませんわ。
わたくしの妹は、木蓮。あなただけよ」
なにもわたくしが酷薄というわけではありません。
巫女となった時にそういう扱いになるというだけなのです。
「お姉様、木蓮は精一杯頑張ります。
どうか木蓮を傀儡にしてくださいませ」
木蓮は、手持ちの能力のみでは皇になれないと理解している。
たったそれだけを理解できるのすら、才能。
そして、理解していながら足掻くのはもっと好ましい。
「ええ。立派な人形になりなさい」
時系列は会議のすぐ後です。
寒国崩壊の流れを一気に書いてしまったので、このあとは後継者争いがしばらく続きます




