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大遠野国物語  作者: 古月 うい
審判がはじまる

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21/24

暴動(みる)

その日は外がやけにうるさかった。


雪も溶けて、冬支度が始まったからかしら。


それにしても、気合い入れるえいえいおーという声がこれだけ聞こえるのはどうしたことだろうと考えながらぼんやり窓の外を見つめていました。


「巫女様!」


予告もなく神官が転がり込んで来ました。


「きちんと知らせを出してから入りなさい。誰の許可を得てのことでしょうか」


神官は一瞬たじろぎましたが、非礼に青ざめることはなく、むしろ焦りを濃くします。


「ご無礼をお許しください。

寒国各地で戦です。華木皇国に攻め込み、先手を打つのだと」


「なんと!」


あれほど華木皇国のせいではないと言ったのですけれど、どうやら通じなかったようです。


「各地の豪族が戦支度をしております。巫女様、これはもはや巫女様にしか対処できません。

お願いします、彼らを止めてくださいませ」


「あなたがすべきなのは状況報告まで。それ以上は不要よ」


神官は項垂れてしまいました。


私はその頭の上に薄衣を被せました。


巫女からの言葉を伝える神官の証です。


「わたくしは今から正装に着替えて参ります。その間に、騒動を起こした人全てを集めなさい。

戦を起こすのなら、一つの豪のみで対処できると考える人はいないのでひとところに集まっているはず。声からしてここから近くでしょう。

それを移動させなさい。なんと言っても構いません。急げ!」


神官は慌てて外に走りでました。


その間に巫女としての正装に着替えます。


神事や会議、巫女国に行く時にしか使用していなかったので、着るのは久々ですり


これを着るだけで、巫女国の会議の時のような気持ちになります。

たまきが知恵を、さあやが知識を貸してくれているような気持ちに。


念の為に鏡を懐に入れ、案内された演説場へ向かいます。


古い時代、大遠野国の統一王国時代の辺境伯が使っていたところです。


「皆さん!」


集まったのは千人弱。基本男性です。


多くは農具や雪かきの道具、果てには雪の時の街道のいちを示す枝を持っている人もいます。


ここでの演説で食い止めなければ、悲惨なことになるのは目に見えています。


できるのは私しかいないのです。

私がやるしかないのなら、やりましょう。


「華木皇国に攻めこむつもりなら今すぐにやめなさい」


なぜだ、嫌だ、無理だというブーイングが飛びかいました。


一体この人たちは豪族長からどう吹き込まれたのでしょうか。


ここまで戦意を煽るのはむずかしかったでしょう。


「戦って、皇国に勝てると本気で思っているのなら今すぐに行きなさい!

華木皇国の軍人は年中訓練をし、沢山の食事をとっています。あなた方はどうですか?」


寒くほとんど雪で覆われた寒国では、食事は限られた夏に作る保存食と、年中細々とする猟で獲れた肉ぐらいです。


冬はほとんど外に出られず、夏も食糧生産に忙しいのです。


さらに、ほとんどの人はまともな兵士としての訓練は受けていません。


それで華木皇国に勝てると思うのでしょうか。


六分の1ほどが納得したようです。


「奥さんや子供は、大切な人はどうなりますか?

働き手であるあなたたちが今いなくなった家で、次の冬を越せる人はどれだけいますか?」


もちろん残った人の頑張りを軽んじているわけではありませんけれど、そこまで余裕のあるところはほぼありません。


昔、まだ巫女を引き継ぐ前は下町で遊ぶようなお姫様だったからこそわかることです。


ほとんどの家は、冬を越すのにせいいっぱい。


そこから一人二人抜けると危ういほどにぎりぎりなのです。


これでもまだまだでしょう。一体どれだけ続ければいいのか気が遠くなります。


「華木皇国は本当にこちらに攻め込みたいと思っているのでしょうか?

雪が多く、作物のろくに育たない寒国を?」


常識で考えればわかることです。


華木皇国は今困っていません。


なんなら後継争いの真っ最中で、そちらに夢中でしょう。


この戦争が後継争いの課題になってしまい、手柄のために多くの人が殺されるのはごめんです。


「だが、それでも、俺たちの土地を理不尽に奪われてたまるか。国が滅ぶと言い出したのは巫女様だろう!」


ああ、私の言葉はそう歪んで伝わったのかとどこか納得しました。


「歴史を紐解いていきましょう。

統一王国を作り上げた初代国王は、全ての土地を元の耕作人の名義にしました。

宗国時代も、奪った土地をいじる人はおりませんでした。

なぜでしょうか」


私がこの過去の事例を知っているのは、招光帝国の光の巫女、さあやのおかげです。


さあやの知識を活かした歴史授業にて、さあやはこうした事実から理由を考えるということをよく行なっていました。


“覚えるだけは、いざという時使えない”


とのことでした。


当時はいざという時がいつかわかりませんでしたが、今ならわかります。


「人のいない土地に価値はありません。また、慣れない土地での耕作はどうしても数年は収穫が不安定になります。

わざわざ奪った土地が役に立たないということは避けたい。なら、個人の土地が奪われる心配はほぼありません」


平民と括られる人々が一番大事なのは自分の土地を守り、子孫に繋げることです。


国が変わったところでなんら問題はありません。


「それでもまだ奪われる心配があるのなら、尚更戦うのをやめなさい。」


なぜという顔をされます。まあ、これは国と国との駆け引きの話ですから、わからない人が多いましょう。


「一か八かの戦争を仕掛け、負けたとします。すると、こちらは相手の要求を全て飲むしかありません。なにせ負けたのですから。

勝てば問題はありませんが、負けた場合はなにをされても文句を言えないのです

そうなれば土地が奪われることはなくとも、強制労働に従事させられるかもしれません。

土地を離れることになります。それでもよろしいですか?」


一息に喋ったから息が切れてきました。

なにせ雪が溶けたとはいえまだ寒いのです。


「戦の前に健全な状態の土地を差し出せば、こちらの要求が通ります。

なにせこちらは相手の望むことをしているのだから、見返りがあって当然です。

どうしますか?まだ、戦いますか?」


もう、戦機はだいぶ消失したようです。


ゾロゾロと帰っていく人たちがいました。


それとは逆に背後がうるさくなってきました。


豪族長たちが抗議しにきたのでしょう。


本当に面倒くさい、いい加減諦めればいいのにと思いつつそちらに向かいました。

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