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大遠野国物語  作者: 古月 うい


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2/6

前書き

昔の昔のことです。


昔、世界のはるか上には荘園がありました。


選ばれた人々はそこで暮らしておりました。


神に近い人々の暮らす場所でもありました。


『ある日崩壊してしまうほどに美しい世界だったと記憶しています』


国は大きく分けて三つありました。


すなわち大遠野国、移儚夜、夢見幾世。


各地には巫女がおり、足りないものを補ったり皆の指導役になったり神との連絡をしたりしておりました。


わたしたちは、それぞれ大遠野国の巫女でした。


大遠野国は大きく、中に国が三つありました。


すなわち凍てついた火のない寒国、光のない招光帝国、水のない華木皇国。


あの頃、わたしたちは月に一度ほど巫女国に集まり、情報交換という名のお茶会に精を出しておりました。


『巫女という肩書きながら本当にのんびりとした危機感のない、ただの女子会とでも呼ぶべきものでした。』


メンバーは寒国の火の巫女冬火(みると呼んでいました。)、華木皇国の水の巫女露華(たまきと呼んでいました。)招光帝国の光の巫女朝日(さあやと呼んでいました)の三人。


それぞれ立場も考えも性格も、その後に選んだ道も全く違います。


これは、いわゆるわたしたちの備忘録とでも呼ぶべきものです。


どうか、わたしたちの軌跡が消えませんように。


『姉さんたちのことが忘れられ、消えませんように』


そう願い、筆を取るよう勧められました。


『勧めてくれた人を、もう覚えてはいません。


姉さんたちはいなくなりました。周りの人も一人、二人と変わっていきます。


それでも、わたしは書き続けます。書くことを辞めはしません。


みんなの記憶からあの日々が消えてしまわないように。わたしの消える記憶を繋ぎ止めるために。


美しく懐かしい記憶というわけではありません。血みどろの、わたしたちの考えの足りなさの象徴のようなものです。


それでも、忘れて消えていくことの方が覚えていることよりよっぽど怖いのです。


わたしたちの、姉さんたちの積み上げたものを頭から否定されているようで、とても嫌なのです。』


くだらない内容でしょう。それでも、たしかにわたしたちは居たのです。

美しい世界を見るためにシリーズの新作です。今回は主人公は固定ではありません。


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