領主
どうやら疎外感を感じていたのは巫女たちだけではないようでした。
隅には同じく小さくなった蛍姫がいました。
「…蛍姫さま」
たまきが呼びかけましたが、首を振られてしまいました。
「蛍姫さま?」
みるが呼びかけても再び首を振られます。
何が違うのか三人は顔を見合わせました。
「呼び方かな」
「これ以外に何があるのかしら」
偉い人には名前に様を付けて呼ぶ。これが常識の三人は戸惑っていました。
『もちろんこれは常識だ。ただ、ここでは違っただけで』
「蛍姫」
さあやが呼びかけるとようやくこちを向きました。
『あとで知ったことだが、神界での神の呼び名である〜姫は敬称らしい。
つまり、そもそも様と言っていたのだ。』
「領主とは何ですか?」
引き続きさあやが失礼のギリギリを攻めるような言葉遣いで話しかけます。
「…若い神とかが争わないための抑止力だからあまり意味はない。気にしなくても、気に入らないからとあなたたちの役を下すことはない。
巫女の役はもっと上が決めた、変えられないこと」
ぶつ切りの繋がりがよくわからない返事をされてしまいました。
「蛍姫、やめなさい」
霊姫が蛍姫を諌める声を聞いて三人が顔をあげると、大きな刃物が降って来る途中で静止していました。
霊姫が静止していなければ今頃…と考えると冷や汗が出るほど、隙間のない殺す気満々の配置でした。
妖怪神たちはどこか苦笑いにも似た笑みを浮かべています。
「…」
蛍姫はバツが悪そうに刀を消しました。
刃物に全く気がついていなかったさあや、たまき、みるの巫女三人は胸を撫で下ろしました。
「もう少し穏便に済ませないさい。いきなり斬りかからない。その子たちは生身の人間よ。
ごめんなさいね」
霊姫から謝られて三人は大変恐縮してしまいました。
「領主とは、管理人。荘園の領地ごとのことを全て決められる権限を持つわ。
他の神も、性質にはよるけれど外とかに領地を持っているの。
ちなみに私は夢見幾世と泉よ。」
蛍姫は不貞腐れてむすっと押し黙ったままです。
「蛍姫は戦神でね。人を見かけると攻撃を何らかの形で一度は仕掛けるの。
もちろん死なないように加減はされるから、その点は安心して」
随分と傍迷惑なと思った巫女は一人ではありませんでした。
「私たちはそんなことないから、安心して。」
「むしろそんな人ばかりだと困ります。」
雪姫も不満を言いました。
まったくその通りだとみんなで同意します。
「あ、もうそろそろ執政官たちが来るわ。みんな、各々の席について。」
霊姫の呼びかけに全員が席を移動していきますり
どうやら霊姫はこの場を仕切れるほどの立場なようです。
『実際、在任期間が最長だったそうだ。』
全員が席についたとき、あの執政官がやってきました。
「いらっしゃい。私は烏姫を呼んできますので、自己紹介でもしてお待ちを。」
霊姫が出て行った部屋で若干の気まずさもありつつ自己紹介をしました。
一通り終わった時、隣の部屋から小さな女の子が入ってきました。
「みなさんはじめまして、霧氷といいます。」
六歳ほどの幼い見た目で、この中で最も短髪『こちらではおかっぱと呼ばれるほどの長さの髪』を持つ少女でした。
服は霊姫たちと似ているものの形違いで、どことなくみるの地域の子どもの衣装を思わせる形でした。
「みなさま、烏姫がいらっしゃいました。これより、開始いたします」
御簾の向こうの霊姫の声に、皆は背筋を伸ばしました。




