第6話 『金欠プレイヤーと音痴バフ屋、そして浪費地獄のシャンパンタワー』
──ハスロ村・酒場兼集会所
ログを開くと、先ほどのクエスト完了報酬が表示されていた。
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《クエストクリア報酬:30,000G》
《ボス撃破ボーナス:20,000G》
《合計:50,000G》
《パーティー分配:各16,666G 端数1Gはリーダーに加算》
アキト「……五万!? ダンジョンボスの撃破ボーナスって、そんなにデカいのかよ……」
思わず目をこすった。
アキト「ってか、パーティー組んでるから均等分配か……おいおい……」
アキト「なんにもしなかったくせに16,666Gももらってんじゃねーよ、ポンコツども!」
ソフィア「はあ!? アンタのせいで私がどんだけ回復に回ったと思ってんのよ!」
ゼクト「……我が影刃は、常に見えぬ戦果を挙げている」
アキト「それ全員の“脳内設定”で言ってんのか!? お前らの戦果、ゼロどころかマイナスなんだよ!!」
ジョッキ片手に愚痴をこぼしていると、店の扉が突然ガラッと開いた。
???「──きゃーっはっはっは! 出たで! また出たでぇぇッ!! 今日のうちは無敵やーッ!!」
肩にギターを背負った少女が、関西弁フルスロットルで飛び込んできた。
???「おーっ、なんや知らん顔ばっかりやな? けど気にせんといてな! うちはノア、ギャンブルとロックに生きるオンナや!」
アキト「うっわ、来た……絶対やべぇやつ……情報量が一言目から爆発してんぞ」
ノア「あっ! それ、クエスト報酬のやつやろ? えっ、五万!? え、ええなぁああああッ!? 仲間入れてぇぇ!!」
ソフィア「ギャーギャーうるさいわね……アンタ何者なのよ」
ゼクト「この波動……“幸運の業火”の持ち主か……」
ノア「あ、これ聞いたらわかるやろ! いっくでぇ──《ラッキー☆ボイス・シュートォォ!!》」
──ギャアアアアアアン!!!
酒場中に轟く破壊的な音。空気が凍りつく。
アキト「おい……その音……武器じゃなくて、ただの“音痴の暴力”だよな……?」
ソフィア「耳が……鼓膜が……壊れた……」
ゼクト「……ぐっ、“幻聴”攻撃か……やるな……」
アキト「……なんかまた、面倒くさいの増えた気がするな……」
(俺、変なやつ集めるチート能力でも持ってんのか……?)
ノア「うっひょー! みんなやるやーん! ……ってことで、改めまして!」
ノア「うちはノア! 職業は《奏術士》っていう、ギターで支援するタイプやねん!」
ゼクト「奏術士……音に魂を乗せる、戦場の吟遊詩人……まさか、伝説の“旋律魔導”を継ぐ者……」
ノア「ちゃうで? ただのバフ屋や。しかも自称な!」
アキト「言うな自分で!? しかもそこ自称なんかい!」
ノアはにっこり笑って、腰にぶら下げたギターをポンと叩く。
ノア「この子でみんなの能力ブーストしたり、癒したりするねん。歌うだけで世界救えるって、ロマンあるやろ?」
ソフィア「……へぇ。っていうか、それちゃんとスキル扱いなの?」
ノア「せやで! スキル名つきで発動するし、詠唱もある! 音痴やけどな!」
アキト「いやそれ、欠陥職じゃねぇか!?」
ゼクト「……だがその“不協和音”こそが、魂を揺さぶる真の旋律……」
ソフィア「ちょっとゼクト、あんたまで変な納得すんな」
ノア「ふふ、みんなおもろいな~。これからよろしく頼むで、相棒たちっ!」
ノアがギターを抱えて椅子に腰かけると、ゼクトが真顔で問う。
ゼクト「ノア……その奏術士の力、実戦ではどれほどのものなのだ?」
ノア「うーん……ぶっちゃけ、運ゲーやで?」
アキト「おいおい、まさかと思うが──」
ノア「スキル発動時に、バフの内容がランダムに決まるねん。『攻撃力アップ』『回避率アップ』『HP自動回復』……みたいな感じ」
アキト「博打じゃねーか!!」
ノア「せやけど! たまーにめっちゃええの出るんよ! “絶対回避”とか、“クリティカル確定”とか、うちもテンション爆上がりなるやつ!」
ソフィア「それ、狙って出せないなら信頼性ゼロじゃない……?」
ゼクト「……だが、その運命に委ねる力こそ、混沌の調律士……!」
アキト「いやゼクト、お前だけ世界観ちがうって毎回言ってんだろ!」
ノア「でもな? この前も一か八かで“必中バフ”引いたときは、周りから“神引きノア”って呼ばれてな?」
ソフィア「それ完全にパチンコの演出じゃない」
アキト(──なんだろう、このパーティー。支援も回復も、なんか不安しかない)
ノア「せやけど、どれが出るかはほんまにうちの“運次第”やからな! そこんとこだけ、よろしく頼むわ!」
アキト「……はあ。まあいいさ」
(──運まかせの奏術士に、中二病の影刃士、そしてツンデレなヒーラー)
(……なんだろうな、やっぱ俺って“変なやつ集める”チート能力でもあるんじゃねーのか)
そのとき、酒場の空気がふわっと変わった。
──露出多めの装備をした美人プレイヤーたちが、こちらのテーブルへと歩み寄ってくる。
女プレイヤーA「ねぇ〜、そこのカッコいいお兄さんたち?」
女プレイヤーB「今夜、ちょ〜っとだけ奢ってくれたら……嬉しいなぁ♡」
アキト「…………おう、任せとけ」
ソフィア「は?」
ゼクト「ほう?」
ノア「おぉ〜!? アキトはんノリノリやな!」
アキト「男にはな、勝負しなきゃいけない瞬間ってのがあるんだよ!」
ソフィア「なんの勝負よ、馬鹿じゃないの?」
アキト「──ッシャァアアア! 今夜は全部奢っちゃるぅぅぅぅぅ!」
女プレイヤーたち「わ〜い♡ じゃあ遠慮なく〜♡」
──ピコン! ピコン! ログメニューが高速で更新される。
女プレイヤーA「ねぇ、この“月影のシャンパンタワー”ってめっちゃ綺麗そうじゃない? 頼んでいい?」
アキト「おぉ〜? いいねいいね! 頼んじゃいなよぉ、姉さんの笑顔にはその価値があるってもんよ!」
女プレイヤーB「きゃ〜♡ やだ、やっぱこの村いちイケてるのはアキトくんだよねぇ〜!」
アキト「いや〜そんなん言われたら照れるなぁ。……でも嫌いじゃないぜ? そういうの」
女プレイヤーA「うふふ、じゃあこの“黄金チーズプレート”もいっちゃおっかな〜?」
アキト「どうぞどうぞぉ〜! 今日は俺がハスロ村の英雄ってことで頼むからさ!」
──ピコン! ピコン! 《注文を受け付けました》
女プレイヤーB「それにしても、アキトくんってすっごく優しいよね〜。強くて、頼れて、しかも財布のヒモゆるゆるで」
アキト「な〜に言ってんだよぉ、そんなん当たり前じゃん。かわいこちゃんの前じゃ財布なんてただの紙袋みたいなもんよ!」
女プレイヤーA「えへ〜、じゃあこの“ドランク・ジュエル”もいこっか!」
アキト「任せとけぃっ☆ 今夜はログの許す限り俺が奢る!」
《ラグジュアリー・ミスト:12,000G》
《ドランク・ジュエル:18,800G》
《黄金チーズプレート:6,500G》
《月影のシャンパンタワー:38,000G》
《女神の涙カクテル:23,690G》
《現在の支払い総額:98,990G》
《所持金:16,666G》
《不足額:82,324G》
《7日以内に支払いが確認できない場合、ランダムペナルティを適用します》
アキト「は……!? え、ええぇぇぇぇぇぇッ!?!? ちょ、待て待て、どこでそんなに頼んだ!?」
女プレイヤーA「ふふ、カッコいい男って──“金払い”もいいんだよね?」
女プレイヤーB「それじゃ、ありがと〜♡ バイバ〜イ」
──美女たちは手を振って去っていく。
アキト「まって、置いてかないで!? 俺のログが、支払い未完了で燃えてるッ!!」
ノア「アキト、おまえなぁ……あと82,000て」
ソフィア「そこまで行くと、逆に笑えない……」
ゼクト「この地には“浪費”の呪いが刻まれていたか……」
アキト「ってか《月影のシャンパンタワー》って何だよ!? 一体何がどうなってそんな値段なんだよぉぉぉ!!」
──こうして、アキトの財布は爆散した。
(……てか、これゲームの中なのに金欠ってどーいうことだよ……)
──その時だった。
ノア「……アホちゃう?」
ソフィア「──バカにバカって言うと失礼だけど……これはもう、救いようないわね」
ゼクト「……闇は、時に愚者をも包み込む……さらばだ、“金欠の英雄”よ」
三人は、それぞれ冷たい言葉を残して──テーブルを離れていった。
アキト「ちょっ……ちょっと!? え、え、まって、みんな!? えっ!? うそでしょ!? ええぇぇぇ!?」
──こうしてまた一人、レベル999の金欠プレイヤーが誕生した──。