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第5話 『フォグラン遺跡のポンコツ攻略戦』


──翌朝、ハスロ村・南門前。


朝露の残る石畳に、軽い足音が響く。


ゼクト「……時は満ちた。今こそ、我ら“闇より出づる影の従者”が──」


ソフィア「はいはい、朝からうるさい」


ゼクト「──って、無視かよ!? せめて反応してくれよ!」


ソフィア「なんでアンタの中二設定に、いちいち付き合わなきゃいけないのよ」


ゼクト「我が名は“漆黒のゼクト”……!」


ソフィア「うん、知ってる。昨日からずっと名乗ってるから」


ゼクト「それを言うならせめて“あだ名で呼ばないで”とか言ってよ!?」


──そして数分後。


アキト「……わりぃ、遅れた!」


肩で息をしながら、俺は南門前に到着した。


ソフィア「遅いわよ! 何分待たせるつもり!?」


アキト「いや、釣りしてたら時間忘れて──って何その顔、雷撃でも落としそうなんだけど」


ソフィア「せっかく早起きして準備したのに、朝ごはんスルーで待ってたんだけど!?」


アキト「……ごめんなさい、ツンデレポニテ姫」


ソフィア「な、なによそれ!? い、意味わかんないし!」


ゼクト「ふっ……どうやら、お前たちの間にはすでに“絆の鎖”が結ばれているようだな……」


アキト「結ばれてねぇよ!? なんで朝からこのメンバー濃いの!?」


ソフィア「ってか、アンタのせいで濃くなってるのよ!」


ゼクト「──では、ゆこう。我らが挑むは、未踏の地《フォグラン遺跡》……!」


ソフィア「……はいはい、じゃあ出発するわよ」


アキト(──なんで俺、こんな朝からテンションの高いパーティに囲まれてんだ?)


俺は深いため息をついて、歩き出す。


でも──ほんの少しだけ、足取りは軽かった。



──陽が高くなりはじめた午前中。

一行は、古代遺跡フォグランを目指して、村の東側の林道を進んでいた。


アキト「……あー、眠い。てかなんで朝からこんな山道歩いてんだっけ?」


ソフィア「アンタが“クエスト受けるしかねぇ”って言ったからでしょ」


アキト「いや、それ言ったのお前とゼクトだろ……俺、どっちかっていうと否定派だったからな?」


ゼクト「抗いきれぬ運命──それはやがて“えにし”となり、導きを与えるのだ……」


アキト「──うん、やっぱりお前のせいだわ。全責任押し付けるからな、中二フィルター」


ゼクト「ふっ……我を導いたのはお前たちだぞ?」


ソフィア「っていうか、これ道合ってんの? あたしマジで方向音痴なんだけど」


アキト「なんで堂々と自白してんだよ」


──その時、茂みの奥からガサガサと物音が響いた。


ソフィア「……ッ、来るわよ! モンスター!」


現れたのは、緑色の毛むくじゃらの小型モンスター。

どう見ても「雑魚」という称号が似合いそうなやつだった。


アキト「あー、はいはい、出ました雑魚敵。さぁどうぞ、お二人のターンですよ~」


ソフィア「任せなさいッ! 我が聖なる力により──敵を討ち──」


……詠唱、沈黙。


アキト「……いや続けて?」


ソフィア「……あれ? なんだっけ。えっと、ヒールじゃなくて、ホーリーじゃなくて──あーもー詠唱覚えてない!」


アキト「うん、お前ほんとによくそれで聖職者ギルドにいたな?」


ソフィア「ちょっ……うるさいわね! 慣れてないだけよ!」


ゼクト「ならば我がいこう──《漆黒ノ闇より生まれし影刃よ、今こそ顕現せよ──》」


……詠唱、長い。


アキト「長ぇよ!!」


ゼクト「“型”だ。“型”が大事なのだ!」


アキト「何の型だよ!? フル詠唱型の中二呪文なんか敵より味方が嫌がるわ!!」


──結局、アキトが一発で敵を撃ち抜いた。


アキト「──もうダメだ、こいつら。詠唱事故コンビじゃねぇか……」


ソフィア「ちょ、そっちばっか目立ってズルくない!?」


ゼクト「我は影だ……輝きなど不要……」


アキト「いや、ちょっとは輝いてくれ頼むから。味方として不安すぎるんだよ」


──そんな感じで、ポンコツ二人に囲まれながら、ダンジョンへの道のりは続いていく──



──古代遺跡フォグラン


ダンジョンに入ってからしばらく、石造りの通路をひたすら進む。

湿った空気と、ぽつぽつ落ちる天井の水滴音だけが響いていた。


アキト(なんだこの……微妙にジメジメした空気。ダンジョンってより風呂の裏側みたいだな)


ソフィア「……ちょっと、足元滑りやすいから気をつけなさいよ」


アキト「ああ。ソフィアこそコケんなよ? ポニテが床にバチーンってなるぞ」


ソフィア「はあ!? なるわけないでしょ!」


ゼクト「フッ……この程度の足場、我が《影刃の歩法》をもってすれば──」


ツルッ。


アキト「すべってんじゃねーか!!」


ゼクト「ぬ、ぬかった……霧の結界に滑りのルーンが刻まれているとは……!」


アキト「ねぇよそんなもん!! 普通にコケただけだろ!!」


ソフィア「ていうかあんた、足首ひねってない? 大丈夫?」


ゼクト「“代償を払わずに力を得られると思うな”……ッ! 問題ない……」


アキト「中二病の設定の中でケガを誤魔化すな」


──そのときだった。


バシュッ!!


何かが天井から飛び出してきた。


アキト「上ッ! なんか来る!!」


姿を現したのは、巨大な昆虫型モンスター。

多脚の身体に透明な羽、毒液のようなものを撒き散らしながらこちらに迫ってくる。


アキト「毒虫タイプか……!」


ソフィア「任せなさい、こっちは詠唱系よ!」


ソフィア、両手を掲げて詠唱を始める。


ソフィア「──我が祈りに応えたまえ、癒しの光──《ヒーリング・シャ──あれ? これ攻撃魔法じゃな──」

アキト「詠唱ミスってる!! しかも回復魔法!!」


ゼクト「ならば……俺が行こう。貫け、闇の刃──《ナイト・カオス・ダ──」


昆虫モンスター「ギャアッ!!」ドガァン!!


詠唱中に虫がゼクトに突っ込んで吹き飛ばす。


アキト「おいおいおい、二人してなんなんだよ!? マジでこれで勝てると思ってる!?」


(……ダメだこいつら)


銃を抜き、構える。


アキト「──ったく、仕方ねぇ」


──パンッ!


一発で昆虫モンスターは爆散した。


アキト「……ふう。これ、ソロのほうが安全なんじゃないか?」


ソフィア「し、仕方ないでしょ!? ダンジョンなんて久しぶりだったんだから!」


ゼクト「我が魔力が今なお安定しないのは……この地に眠る封印の力のせい……」


アキト「どの口が言ってんだ中二病!」


──遺跡の奥へと続く道。その先には、気配が強まっていく気がした。


アキト(……そろそろボス戦、って感じか?)


そして、3人はゆっくりと、最奥へと歩を進めた──。


──通路の奥、重厚な扉を抜けた瞬間、空気が変わった。


湿った冷気。音のない闇。目の前には、不自然なまでに広い石造りのホールが広がっている。


アキト「……なんだこの空間、ラスボス部屋か?」


ソフィア「気をつけて。来るわよ──!」


闇の中から、何かが“覗いた”。


巨大な、単眼。


ドクン──と心臓が跳ねる。鼓膜に直接圧をかけるような気配が、全身を包んだ。


ゼクト「くっ……奴の名は──『虚殻のゲイザー』!」


アキト「今つけただろ!?」


咆哮とともに、巨体が現れる。宙に浮かぶ禍々しい黒い肉塊。その中央には、瞳孔の開いた血走った眼球が──ギョロリ、とこちらを睨んでいた。


──バチン!


視線だけで、壁が爆ぜる。魔力を凝縮した凝視攻撃か。


ソフィア「《ホーリーレイ──ッ》!」


彼女の詠唱から放たれた光が、ゲイザーの体に命中する──が。


アキト「……通ってねぇな、ダメージ」


ゼクト「ならば我が奥義──《影刃・乱月舞──》


(ドンッ)


詠唱が終わる前に吹き飛ばされた。


アキト「おいこらポンコツども!!!」


2人の攻撃が通らず、ゲイザーはゆっくりと宙を舞い、眼球の中に禍々しい光を集め始める。


──このままじゃやられる。


アキト「……仕方ねぇか」


銃を構える。

その瞬間、アキトの足元に蒼白い魔法陣が展開された。


ゼクト「な、なんだ……この魔力反応……」


ソフィア「アキト、アンタまさか──!」


アキト「──ぶっ壊すか。まとめてな」


その身体が、ふわりと宙に浮かび上がる。


服がなびき、髪が風を切る。


空中で銃を両手に構え、アキトは静かに言った。


アキト「《セレスティアル・バースト》」


──ズドォォォォォォォォン!!!


青白い閃光が、空間ごとゲイザーを貫いた。

まるで星が砕けたような爆音と閃光がホールを包み込む。


光が晴れたあと、そこには──ただの瓦礫と、ゆらめく煙だけが残っていた。


アキトはゆっくりと地に降り立ち、ホルスターに銃を戻す。


ソフィア「……え、なにあれ、ずるくない?」


ゼクト「神話級だ……もはや神話級の存在だ……」


アキト「はいはい、今日の仕事終了っと」


口元には、うっすらと笑み。


アキト「──これだから働きたくねぇんだよ。強すぎると、全部俺がやらされる」



ソフィア「……私たち、本当ダメね。回復も攻撃もポンコツで……」


ゼクト「我が魔眼は……今日は休暇中だったのだ……」


アキト「──バカ野郎」


二人がハッと振り向く。


アキト「ポンコツだろーが、下手くそだろーが、いいじゃねぇか。今こうして──生きてるんだからよ」


アキト「……それだけで、十分勝ちだろ」


ほんの一瞬、空気が静まり返る。


ソフィア「……な、なによそれ、急にカッコつけて……」や


アキト「……まあ、お前らがポンコツなのは変わりないけどな」


三人の笑い声が、薄暗いダンジョンに小さく響いた。


──そして俺たちは、出口の光へ向かって、ゆっくりと歩き出す。


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