第4話《強制パーティ、勘弁してくれ──中二病とツンデレがうるさい
──ハスロ村、・酒場兼集会所。
木製のカウンターに三つ並んだジョッキが、カシンと音を立てた。
アキト「ぷはぁ……! この世界、飯もうまいけど酒もうまいのは偉い」
アキトが満足げに一言。
アキト「……で、さっきから気になってたんだけどさ」
ジョッキを傾けながら、アキトがゼクトとソフィアをチラッと見る。
「なんでだよ」
アキトがぽつりとつぶやく。
「は? 何がよ」
ソフィアが訝しげに返す。
アキト「なんで俺たち、こんな自然に三人で酒飲んでんの?」
ゼクト「む。それは“縁”というものだ」
ゼクトが意味深な表情でグラスを掲げる。
「うっわ、出たよ」
ソフィアが即ツッコミ。
アキト「いやいや、縁で済ませんなよ。昨日会ったばかりの中二病とツンデレと、なぜ俺が晩酌してるんだよ」
アキトが苦笑しながら肩をすくめる。
「ほぅ……ツンデレと中二病、か」
ゼクトが口元を覆いながら低く笑う。
「誰がツンデレよ! あんたでしょ! 中二病の極みってあんたのことだから!」
ソフィアが即カウンターを叩く。
「……む? 我が“真名”を呼ぶ気か?」
ゼクトが得意げに髪をかき上げる。
「いいからまず名乗れよ!」
アキトが突っ込む。
「ふ……仕方あるまい。我が名は“漆黒のゼクト”。その名は、かの《影牙の盟》にて刻まれし伝説──」
──そう。この異常に存在感のうるさい男……いや“自称:漆黒のゼクト”が加わったせいで、平穏な夜が崩壊したのだった。
アキト「……ところで、ゼクトって職業なに?」
「我が身は“影刃士”。闇に潜み、静かに命を刈り取る影の処刑人だ……」
アキト「……中二病全開なことだけは分かった」
ソフィア「“影刃士”って……つまりアサシン系ってことね?」
ゼクト「ふっ……俗称では、そう呼ばれているな」
ソフィア「じゃあ、ギルドとかにも所属してたの?」
「……かつては《影牙の盟》に在籍していた」
アキト「なんか、それっぽい中二ギルド名きたー!!」
ソフィア「いや、実際に存在する有名ギルドだよそれ……。でも追放されたんでしょ?」
ゼクト「……“無駄な詠唱が多すぎる”とか、“敵より先に味方が恥ずかしがる”とか……くだらん理由でな」
アキト「いやいや、それ、理由としては充分すぎるだろ!?」
ゼクト「奴らが……俺の真の力に気づけなかっただけだ……!」
アキト「……そーゆうこと言ってるから追放されたんだよ」
ゼクト「フッ……凡人の理解を得ようなど、最初から期待してなどいない……」
「まさかとは思うけど……お前、そのギルドで“あのノリ”で過ごしてたのか?」
アキトが恐る恐る尋ねる。
「当然だ。“漆黒のゼクト”はいついかなる時も、闇と契約しておる」
「そりゃ追い出されるわ……」
ソフィアとアキトがハモった。
アキト「ってかゼクトって、レベルいくつなんだ?」
アキトがグラスを口に運びながら訊ねる。
「ふっ、我がレベルは……5だ」
「……うん、急に怖くなくなった」
アキトが肩の力を抜く。
「低っ!? しかもなんか中二設定ばっかでバトルスキルなさそうな雰囲気!」
ソフィアが爆笑しながら言う。
「な、なにをぉ……! 我には“影より放たれし五連撃”が……!」
「具体的に言うと?」
アキトがすかさず聞く。
「……スキル:シャドーファング。前方の敵に……こう、ズバババって……」
「擬音でごまかすなッ!」
ソフィアの鋭いツッコミが炸裂する。
──夜の酒場に響く笑い声。
アキトはふと、ジョッキを見つめた。
(……なんだかんだで、こうして誰かと笑い合える時間って悪くない)
(でも俺の“スローライフ”計画、だんだん怪しくなってきた気がするんだけど?)
三人でのんびりジョッキを傾けていたその時──
ソフィアがふと思い出したように言った。
ソフィア「……てかアンタ、ここで飲んでるけど、支払いできるゴールドあるわけ?」
アキト「……ゼ、ゼロ」
ソフィア「なんで堂々と答えるのよ!?」
アキト「いや、串焼き買ってもらったあたりから財布は空だったわ」
ゼクト「金など……幻想にすぎん」
アキト「幻想じゃねぇよ! ここ現実のゲームだからな!? リアルに宿代も取られるし、メシ食わないと死ぬし!!」
ソフィア「そうそう。てか働けよ、釣り師」
アキト「だから釣りは癒し枠だっつってんだろ……!」
(──やばい、このままだとツケも払えないまま追い出される未来が見える)
俺は渋々席を立ち、酒場の奥に目をやる。
そこには──《任務クエスト提示版》。
アキト「……はぁ。仕方ねぇ、見に行くか」
ゼクト「ついに歩み出すか、“運命に抗う者”よ……!」
アキト「いや誰だよ!? あとお前は誰の運命と戦ってるんだよ!?」
ソフィア「はいはい。とにかく掲示板見に行こ。ちょうど私もお金稼ぎたいと思ってたし」
──酒場奥・任務クエスト提示版の前。
アキト「はぁ……結局、クエスト受ける流れになっちまったか……」
ソフィア「宿代どころか、串焼き代すら払えてなかったでしょ?」
アキト「いや、俺はその……“スローライフ”っていうか、“無銭ライフ”を目指してたのに……」
ゼクト「哀れなる堕落者よ……定命の者として、いずれ“労働”という名の楔に縛られる運命にあったのだ」
アキト「うるせぇ! 中二ナビアプリかお前は!」
ゼクト「我は漆黒の案内者、《冥府のコンパス》だ」
アキト「そのコンパス絶対ズレてんだろ!! 真逆に突っ走ってるぞ!!」
──とりあえず、掲示板を眺めてみる。
ソフィア「ほら、これ。『近隣未調査ダンジョンの探索依頼』。報酬もそれなりに高いわよ」
アキト「“未調査”ってことは、まだ誰も踏破してないってことだろ? ヤな予感しかしねぇ……」
ゼクト「その場所は“封印の瘴気に包まれし歪界”……伝承によれば、かの地には“禍つ神”が眠ると──」
アキト「はいはい却下! オカルト臭がすごいから却下!」
ソフィア「はい、じゃあこのダンジョンに決定っと」
アキト「人の話聞いてた!?」
──ピロン。
【クエスト『古代遺跡フォグラン探索任務』を受注しました】
──パーティーログに、ソフィアからの申請通知が届く。
ソフィア「そういえば、まだパーティー組んでなかったわね。ほら、申請送ったわよ」
アキト「いや、ちょっと待て。パーティー組むってことは、俺に何かあったら君らも責任感じるわけで──」
ソフィア「はい、強制加入」
アキト「え、俺の意思は!? 今、承認前に秒で強制召喚されたぞ!?」
ゼクト「繋がれし魂は断てぬ……もはや貴様は“運命共同体”だ」
アキト「だからその運命ってのを選ばせてくれよ!!」
──
アキト(……いや、冷静になれ。ここでクエスト行かなきゃ、結局ずっとツケで飯食う羽目になる)
アキト(仕方ねぇ……明日だけ。明日だけ頑張ろう。明後日からはスローライフ再開ってことで……)
ソフィア「じゃ、今日は解散。出発は明日の朝ね!」
ゼクト「“暁の刻”に、我らは再び集いし者となる……」
アキト「朝8時って言えや!!」
──こうして俺は、極めて不本意に、冒険者生活をスタートすることになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
第4話では、ついに(というか仕方なく)アキトたちが“パーティ”を組む流れになりました。
釣りして串焼き食って寝てただけの主人公が、
ツンデレヒーラーと中二病アサシンに囲まれて、
「パーティ組もうぜ」って……いや、何のバグだよこれ。
ゼクトの中二病っぷりは今後さらに加速しますし、
ソフィアのツッコミもどんどん冴えてきます。
アキトがいつまで逃げられるか──というか、逃げきれない予感しかしません。
次回からは、いよいよ**“初ダンジョン探索”**に突入します!
引き続きよろしくお願いします!