第18話《S級ダンジョン、仲間ロスト中。》
第2層:転移の始原境界。
氷結の大階段を登り切った一行は、雪煙が舞う凍土の空間に足を踏み入れた。白銀の大地に立ち込める霧、その先は視界すらおぼつかない。
アメリア「ここが……第二層。景色は似てるが、気配が違うな」
ゼクト「体感温度、-10度以下……。ギャグなら凍るぞ、ノア」
ノア「ぎゃー! 鼻毛まで凍るぅーっ!」
ソフィア「……あんた、ギャグ以前に女子として終わるわよ」
そんな会話の中、一歩前に出たアキトが、つるりと足を滑らせた。
アキト「おっとっと──うおおおおおっ!?!?!?」
ガッシャァァン!!
派手に転倒し、顔面から氷に激突。その衝撃で、彼の足元にあった氷が砕け、下にあった装置が露出する。
アキト「な、なんか今ピキっていったぞ!? ってこれ──」
《システム通知:転移トラップが発動しました》
アキト「ちょ、まっ──! なんで俺だけぇぇぇぇ!?」
アキトの体が光に包まれ、一瞬でかき消える。
ノア「あああああああ!? アキトぉぉぉおお!?!?」
ゼクト「マジかよ……凍結床トラップと転移の合わせ技……鬼か」
ソフィア「というか、あんな滑り方で飛ばされる人、初めて見たわ」
アメリア「油断大敵だな……。転移トラップだ、座標の特定は不明。だが恐らく、上層か下層へ飛ばされた」
エレナ「……彼のことは心配だけど、今は私たちが進むしかないわ」
ノア「えっ!? アキト助けに行かへんの!?」
エレナ「彼なら、大丈夫。あの程度のトラップで死ぬほどヤワじゃない」
ゼクト「それ信頼というより、雑な期待じゃないか?」
ソフィア「でもまあ……アキトなら、確かに生き残りそうよね。ギャグ補正で」
そして一行は──アキト不在のまま、ダンジョンの奥へと歩を進める。
※視点:エレナたち
――氷の吐息が、空間を凍てつかせる。
エレナ「来るわ。正面、三体……氷狼種ね」
静かに詠唱に入るエレナの周囲に、五色の魔力が渦を巻く。
エレナ「前衛、アメリア援護お願い。ノア、ゼクト、ソフィアは後方で支援に回って」
アメリア「任されたっ! 剣士アメリア・ヴァレンタイン、いざ参るっ!」
アメリアが抜刀と同時に突撃。続いてギルド仲間たちも各々のポジションを取る。
氷狼「グルルル……ッ!」
咆哮と共に雪原を疾駆する氷狼たち。そのうちの一体が、アメリアへ真っ直ぐ襲いかかる。
アメリア「斬り伏せるッ!!」
鋭い踏み込みから放たれた横薙ぎの一閃。《クロスセイバー》が氷狼を地に沈めた。
ノア「っしゃあ! ノリノリやん、アメリア先輩~!」
ギターを構えたノアが、派手に弦をかき鳴らす。
ノア「運命の再演だああぁ〜ッ! 《ラッキー☆アンコール!》!!」
(ビィイイイイン……)
ゼクト「音程ズレてる!! なんでここで裏返るんだお前はァ!!」
ツッコミの直後、敵の周囲にキラキラしたオーラが展開される。
ノア「えっ!? なんか敵が輝いてるぅ!? まさかのバフ!?」
ゼクト「お前のせいで敵が“再演”してどうするッ!」
ソフィア「もう……っ、あんたたち後ろ下がってなさい!」
凍てついた牙がノアを襲う――直前。
ソフィア「《ヒールプロテクト》!」
白い光がノアを包み、聖なるシールドが前に出る。氷の牙がそれにぶつかって砕け散った。
ノア「あ、ありがとソフィアちゃん! 今のガチでやばかった〜〜!」
ソフィア「だから言ったでしょ。無茶はしないって!」
(ゼクトが横を駆け抜け、魔獣の懐に入り込む)
ゼクト「──影刃・乱月舞!」
斬撃の残光が幾重にも重なり、魔獣の腹を裂いていく。
アメリア「よし、押し切るわよ! はぁっ!」
(アメリアが剣を構えて突進し、トドメを刺す)
ギルド仲間(男)「なんであの三人、こんなに騒がしいんだ……!」
エレナ「《フレイム・スパイラル》」
エレナの火柱が氷狼を包み、瞬く間に黒焦げに変える。
ギルド仲間(男)「……さすが、団長……!」
ゼクト「さすがの威力……これが、“特異存在”と称されし者の片鱗か──」
ノア「え、これでまだ全力ちゃうの? やばくない? マジ火柱の魔王やん」
ソフィア「……なによあれ。、チートじゃない……」
アメリア「……我らが団長だ、凡庸な存在なわけがなかろう!」
ノア「うわ出た、急に持ち上げ始めたぞ! さっきまで滑って転んでたくせに!」
アメリア「なっ、それとこれとは別問題だ!」
(その後もエレナの魔法が炸裂し、敵を一掃していく。ゼクトとアメリアが前線で敵の動きを封じ、ノアが後方で《ラッキー☆アンコール!》を奏でる)
ノア「運命の再演だああぁぁーッ!!」
(ギターの音が炸裂する。今回は成功したようで、パーティにキラキラとしたバフエフェクトが付与される)
ソフィア「ノア、今日に限っては悪くないわね」
ノア「えへへ〜褒めてもなにも出ぇへんよ?」
ゼクト「さあ、エレナ殿が開けた道を進もう。我らが支えねばならぬ」
(隊列を組み直し、冷気の満ちた通路を進む一行。その後ろ姿に、静かに力が宿る)
エレナ「……アキトくんも、どこかで戦ってるはず。私たちも、負けてられないわ」
(全員が頷き、薄暗い氷の回廊の奥へと進んでいく──)
第2層中盤、階段を上がりながら進む一行
エレナ「……次は第3層。このあたりから、地形が一気に複雑になるわ」
ゼクト「ふん、ようやく腕が鳴るというものだな。ここの攻略データは完璧に揃っているのだろう?」
エレナ「ええ。でも──問題は、その5層なの」
(エレナ、スッと空中にウィンドウを展開し、立体地図のような映像を表示させる)
エレナ「……第5層、通称“迷界層”。
この層だけは特殊で、地形が異常なまでに入り組んでいるわ。私たち《神楽の紡》が、他のギルドと協力して、数ヶ月かけてようやく全体マップを完成させたの」
アメリア「地図なしで突っ込んだら、確実に帰って来られないな。あそこはモンスターの湧きも異常だし、足元も滑るし……ダンジョンの罠が本気出してくる層って感じ」
ノア「えっ、アキトくんそこ行っちゃったの!? ……死亡フラグじゃん……」
ソフィア「……合流なんて、まず無理そうね」
(一同が黙り込む。アキトの無事を思って)
その頃アキトは
アキト(内心)
「──って、あぶねっ! ……って、うおおおおおお!? な、なんだこの落下アニメーション! なんで俺だけこんなド派手な転送演出なんだよッ!?」
(ガクン、と画面が揺れるような感覚。視界が再構築され──気づけば、アキトは薄暗く、湿った空気の通路の中にいた)
アキト「…………おい。ちょっと待て」
(辺りを見回す。左右に無数の分岐路。天井からは冷気の混じった水滴がポツ、ポツと滴る)
アキト「なんで俺だけ1人なんだよ!!」
(響き渡る虚無の叫び)
アキト(内心)
「よりにもよってS級ダンジョンでパーティ分断!? しかもなにここ、めちゃくちゃ迷宮っぽいんだけど!?」
(左右に同じような通路が10本以上。見た目がどれも一緒。迷子誘導100%構造)
アキト「普通こういうのってさ……流れ的にエレナと二人きりになって、なんか恋が始まるイベントだろーが! なんで俺だけ一人なんだよーっ!!」
(カン、と天井から氷柱が落ちてきて、アキトのすぐ横に突き刺さる)
アキト「──おわっ!? な、なんか空気もやばくね!? 魔物の気配っていうか……このフロア、なんか濃い……」
(慎重に銃を構える。視線を周囲に巡らせながら、奥へと歩き出す)
アキト(内心)
「……まあ、仕方ねぇか。1人で生き延びるのにも慣れてきたし……。それに、どうせそのうち合流できるだろ。
たぶん……たぶん、な?」
(そう言って歩き出した背後──通路の天井から、複数の目がこちらを見下ろしていた)