第13話《恋のクエスト、終了のお知らせ》
アキト「──もういい。雑貨屋行ってプレゼント選ぶぞ。こんな茶番に付き合ってる暇はねぇ」
アキト「花でもアクセでもいい。なんか“気持ち”が伝わるもん渡して、ちゃんと話して、一緒に歩く時間作るんだよ。それが──」
ノア「デートや〜〜〜〜〜!!」
アキト「うるせぇ!!」
ソフィア「……あんた、妙に恋愛経験豊富そうな物言いね」
アキト「ち、ちげーよ!? アニメとか漫画とかの受け売りだし!!」
ゼクト「……やはり貴様、ただ者ではないな……“リア充”の風格が滲んでいる……」
アキト「その称号いらねえから!!!」
アキトは髪をぐしゃっとかきむしりながら、息を吐く。
ボルグ「よっしゃぁあああああ!! 選ぶぞぉおおおおおッ!! ミナちゃんが喜ぶ、愛と情熱のスーパーウルトラプレゼントをなァ!!」
アキト「うわ……テンションキモッ!」
ソフィア「絶対ロクなもん選ばないわね、あれ……」
ノア「プレゼントじゃなくて、不審物やで、あの勢い……」
──ハスロ村・雑貨屋
木製の看板には“クラフトキャビン”の文字。村で唯一、アクセや小物、ちょっとしたプレゼント用品まで揃う雑貨屋だ。
中に入ると、花の香りと、色とりどりのアイテムが所狭しと並べられていた。
ノア「おぉ〜〜! めっちゃかわいいのいっぱいあるやん!」
ソフィア「悪くないわね……こういうところ、意外とセンスが問われるのよ」
アキト「よし、さっさと選んでサクッと終わらせようぜ。……で、ボルグ。お前、何買うつもりなんだよ?」
ボルグ「ふ、ふふ……見てくれ、この……《手編みの白い腹巻き》を……ッ!!」
一同「…………」
アキト「ぶっ飛ばすぞオメー!!!」
(ベシィッ!!)
即座にアキトのチョップがボルグの後頭部を捉えた。
アキト「なんで“告白プレゼント”に腹巻きなんだよ! しかもなんだよ“手編み”って、誰が編んだんだよ!? お前か!? お前が編んだのか!?」
ボルグ「い、いや……NPCのおばあちゃんが……。ぬくもりを感じるかと思って……」
ゼクト「……逆に恐怖を感じるわッ!!」
ノア「いや、逆にアリかも……ってなるかァーーい!! 昭和の恋かッ! いや昭和でも、そんなプレゼントしないわ!!」
ソフィア「腹巻きって……なによそのチョイス、選び方が狂気でしょ……」
ノア「むしろどういうプレイ!? 告白どころか、罠やん!!」
ゼクト「……それはまさに、愛の名を騙る防寒具……」
アキト「防寒関係ねぇわ!! つーかなんで“愛の形”が“腹巻き”なんだよ!!」
ボルグが真顔で腹巻きを握りしめている姿に、アキトたちは一斉に頭を抱える。
アキト「ほらもう一回最初から考えろ! 腹巻き以外で、普通のプレゼントって言ったら何だ!?」
ボルグ「う、う〜ん……じゃあ……この《闇の加護が宿る黒曜の指輪》とか……?」
ノア「なにそれ! 完全に呪いのアイテムやないの!!」
ゼクト「ふふ……これは“愛が成就しなかったとき、相手の幸福を永久に呪う”という伝承が……」
アキト「お前までノるなァァァァァ!!」
結局その後、まともなプレゼントを選ぶまでに、さらに二度アキトの鉄拳が飛ぶことになるのだった。
──ハスロ村・雑貨屋前。
アキト(……なんとか、止められた)
腹巻き、愛の短冊、うさぎの剥製、そして“ミナちゃん形のぬいぐるみ(手作り)”など、全力でボツにした末──
最終的に選ばれたのは、ちょっとした花の髪飾りだった。
ソフィア「……まあ、無難ね」
ノア「ほんま“奇跡の方向転換”って感じやったわ……」
ゼクト「かつて闇に染まりし者が、光を選ぶとはな……」
アキト「お前らもナチュラルにボケるのやめろ」
ボルグ「……よ、よし。決めたっ……! ミナちゃんを、デートに誘う!!」
アキト「……いや、言うのは自由だけどな。あくまで“普通のテンション”で頼むぞ」
そしてその数分後。
村の井戸端で水汲みしていたミナに、ボルグが突撃。
ボルグ「ミ、ミナちゃ……い、いっしょに、その、あの……こ、こ、こ、こ、こ、こ、今度の休みに、で、で、で、で、で、でぇぇぇぇとっっ……しませんかああああああああ!!!???」
(バァァァン!!)
アキト(声がでかい!!!)
村中に響き渡るボルグの叫び。
ミナが一瞬ぴくっと振り返り、そのまま、じーっとボルグを見る。
ミナ「……え、なに? あ、えっと……」
微妙に困惑しながら、目を泳がせる。
ミナ「……ま、まあ……ちょっとだけなら、別に、いい……けど……」
最後の語尾は小さく、赤面してぷいっとそっぽを向いた。
アキト(あ、あれ? ……え、可愛い反応きたぞ!?)
ノア「ヒュ〜〜〜! ツンデレ炸裂ぅ〜〜〜!!」
ゼクト「……世界が祝福に包まれた瞬間だ……」
ソフィア「……ま、ちょっと意外だったけどね」
アキト「いや、なんで成功してんだよ!? てか、なんか普通にときめいたぞ俺!?」
──デート当日。
アキトたちは、遠巻きに尾行する形で付き合っていた。
ボルグは、やや猫背気味に、それでも必死に背筋を伸ばしながらミナの隣を歩いていた。
ボルグ「ミナちゃん……今日のその服、すっごく似合ってるね……っ!」
ミナ「あ、そ……ありがと……?」
アキト(うわ、開幕からキモい……!)
ノア「見てアキトくん、右手! あいつ右手だけ微妙にぷるぷる震えてるで!?」
ゼクト「……これは“恋愛エネルギー暴走”の初期症状……いずれ全身が痙攣し始める」
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焼き菓子屋に立ち寄った際、ミナがクッキーを見て微笑むと、ボルグはすかさず──
ボルグ「……その笑顔、反則すぎるよ……ミナちゃんの笑顔は、世界を救える……ッ!」
アキト(こっちの胃袋が崩壊するぞ……)
ソフィア「アレ? さっきのクッキー、チョコレートじゃなくて“毒”だったっけ?」
ノア「いや〜、甘すぎて糖尿なるわ、ほんまに」
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花畑に移動中、ボルグがふと立ち止まる。
ボルグ「ねえ、ミナちゃん。……この花、君の瞳と同じ色だ」
ミナ「えっ? ……いや、私の目、そんな色じゃ──」
ボルグ「僕の心の目で見えてるから、大丈夫っ!」
アキト「大丈夫じゃねぇよ!!!!」
そして、湖畔にたどり着いた二人。
ボルグ「ミナちゃん、今日はありがとう。君と過ごしたこのひととき、僕の記憶に永久保存だよ……」
ボルグはそっと、懐からプレゼントを取り出し──震える手で渡した。
ボルグ「これ……この前、君のために、選んだんだ。……ミナちゃんに、似合うと思って……」
ミナ「……うん。ありがと……キレイだね」
ボルグの表情が、ぱあっと明るくなる。
そして──
ボルグ「ミナちゃん。俺……君のことが、好きです! ずっと、ずっと、前から──」
──その瞬間。
ミナ「おい、おっさん」
ボルグ「ッ!?!?」
ミナ「いや、マジで。ホント悪いけどさ……マジできめぇんだよ。笑い方とか、喋り方とか、語尾に“〜ですぞ”って付けそうなとことか。無理。ほんと、無理。しばき回すぞ?」
ズガアアアアアンッ!!!
精神的な地雷を、全力で踏み抜いたボルグのハートが砕ける音が響いた。
ノア「な、なんて破壊力や……ッ!!」
ソフィア「“破滅の言霊”……!」
ゼクト「……完全なる敗北──《デス・コンフェッション》」
アキト「……いや、俺もけっこうテンプレ期待してたけどさ。これは、ちょっと……リアルすぎて逆に辛ぇな……」
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《クエスト結果:失敗》
【進行条件未達成:恋の成就】
【取得報酬:ゼロ】
【ダメージ:精神的致命傷】
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アキト「──はい、お開き」
ノア「帰ろっか〜」
ソフィア「うん、そうね。なんか、いろんな意味で……疲れた」
ゼクト「闇に堕ちし者の運命に……黙祷を」
そんな中、ボルグは空を見上げ、微笑んでいた──目から光を失いながら。