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第11話『借金完済。だが説教イケメン、お前はダメだ』


──ハスロ村・酒場兼集会所ダストホーン


 ──あの激闘から、数日後。


 蒼哭竜ヴェルグラーデとの戦いを終え、俺たちは再び、最初の拠点・ハスロ村へと戻ってきていた。


 そして今──


アキト「……ログ、開いてっと」


 昼下がりの《ダストホーン》。

 人もまばらな酒場の隅で、俺はひとりログウィンドウを展開していた。


《個人ステータス》

┗ 所持金:150,000G

┗ 借金残高:82,324G

┗ 操作:〈借金を返済する〉


アキト「これで……ようやくだ」


 ──ポチッ。


 効果音と共に、画面が切り替わる。


《借金を返済しました》

┗ 借金残高:0G

┗ 残金:67,676G


アキト「っしゃあああああ!!」


 思わずガッツポーズ。


 パーティー報酬としては、ヴェルグラーデ討伐の報酬金15万Gを均等に分けるのが本来だが、

 今回は、3人が口をそろえて「アキトが全部持ってけ」と言ってくれた。


 その理由は──まあ、俺が全部なんとかしたから、ってのと、

 たぶん……俺の財布事情を気にしてくれたんだと思う。


「返し終えたかい、兄ちゃん」


 カウンターの奥から、NPCの無精ひげのオヤジが顔を出す。

 この世界じゃ、借金情報も村の酒場に紐づいてるらしく、ログと連動してるっぽい。


「これで名実ともに“フリー”だな。借金持ち卒業、おめでとうさんよ」


アキト「まずは晩メシだな……宿代はいらねぇしな。俺には──帰る家畜小屋がある」


 まるで負け惜しみみたいなセリフだが、不思議と悪くない。

 ようやく、俺の異世界生活も“借金ナシ”で再スタートできるってわけだ。


 ──そう、俺の本気はここからだ。

 いや、やる気はないけど。



ログを閉じて、ひと息。


 酒場の入り口のドアが開き──懐かしい声が響いた。


ソフィア「……アキト!」


ノア「おぉ〜、ほんまにおった〜!」


ゼクト「……ここに在りしは、借金より解き放たれし解放者──アキト」


アキト「お前、語り口変わってねぇな……」


 3人の姿に、なんとなく懐かしさを覚えながらも、どこか落ち着く空気があった。


ソフィア「私たち……あの戦いで気づいたの。今のままじゃ、ダメだって」


ノア「うち、もっとちゃんとスキル当てたいねん……音外してる場合ちゃうわ!」


ゼクト「影より出でし我も、さらなる力を求めて……次なる闇を斬らねばならぬ」


アキト「いや誰もお前にそんな使命感持たせてないけどな?」


ソフィア「とにかく、私たち……もっと強くなりたいの」


ノア「せやから、いっぱいクエスト行って、修行して、スキル磨きたいんよ!」


ソフィア「だから……一緒に行こう、アキト」


アキト「……えっ? やだよ」


ソフィア「は?」


ノア「は?」


ゼクト「……なに?」


アキト「俺がクエスト行ってたのは、借金があったからで──もうそれ、終わったし」


ソフィア「まさかの即答……!」


アキト「俺の理想はな……この村でのんびり暮らすことなんだよ。朝は釣りして、昼寝して、夜はここで酒飲んで──」


ノア「それもう、おっちゃんの人生やん!」


ゼクト「貴様……過去にどれほどの酒場を渡り歩いてきた──」


アキト「だから勝手に壮絶な過去をつけるなッ!」


その時突然


???「──君が“ZION”だね?」


突然、場の空気が変わる。酒場ダストホーンの入り口に立っていたのは、一人の男だった。



整った顔立ちに、光沢のある白のマント。そして背には一本の剣を背負い、堂々とした足取りで歩み寄ってくる。



???「《白鷹はくよう》の団長──鷹羽 誠士郎たかばね・せいしろうだ。君の噂は、僕のところにも届いているよ」


ソフィア「……っ! 鷹羽 誠士郎って、まさか……三大ギルドの一つ《白鷹》の団長!?」



ゼクト「……光の加護を纏いし高潔の剣士……まさか、リアル存在だったとは……」



アキト(うわぁ、爽やかイケメンで真面目そう……一番苦手なタイプ来たわ……)



誠士郎「君の仲間たちは、“もっと強くなりたい”と願ってる。そんな仲間の意思を無視して、村でのんびり過ごすっていうのは……正直、どうかと思うな」


アキト「──あんた、誰に頼まれて説教しに来た?」


誠士郎「頼まれてなんかないさ。ただ……見ていられなかっただけだよ。君みたいな男が、仲間の“本気”から目を逸らしてる姿がね」



誠士郎「ちなみに君は──なんでそんな力がありながら、こんな場所でのんびりしているんだ?」


 声にとがったトーンはない。ただ、まっすぐすぎるほどに真剣だった。


誠士郎「最近でも、蒼哭竜ヴェルグラーデを倒したそうだね? ……ここはゲームじゃない。デスゲームだ。毎日、どこかで誰かが死んでる世界だって自覚は──あるのか?」


アキト「……じゃあ聞くけど、お前はこのゲーム始まる前、戦争してる国に行って、その人たち救ってたのかよ?」


誠士郎「そ、それは……っ」


アキト「違うだろ? 俺が言ってるのは、誰もが“決まった選択”をしないといけないわけじゃないってことだ」


アキト「たしかに、お前みたいにこの世界を本気でクリアしようとするのも正解だと思うよ。立派だと思う。でもな──そうなれない奴もいるんだよ」


アキト「絶望してる奴。諦めてる奴。現実が嫌すぎて、ここでやっと落ち着けた奴……そして俺みたいに、スローライフ希望してる奴もな」


誠士郎「…………」


ソフィア「……なんかいいこと言ってる風だけど、結局アンタがだらけてたいだけじゃない」


アキト「うるせぇ」



誠士郎「……もういい。君に何を言っても無駄なようだね」


 真っ直ぐな視線をこちらに向けたまま、彼は静かに言葉を続ける。


誠士郎「──だが、君の力が必ず必要になる時がくる」


誠士郎「この世界には、各地にダンジョンが存在している。そしてそれらすべてを攻略したとき──“99層ある”と噂される最終ダンジョンが出現するらしい」


アキト(いや、それ某アニメで見たやつだろ……!)


誠士郎「そしてもう一つ……この《ルミナリア・オンライン》には、それぞれの職業にたった一人──チート級の“特異存在”が存在すると言われている」


アキト(え、何この人……聞いてもないのにベラベラ喋り始めたぞ?)


誠士郎「たとえば──」


 一本の剣を軽く肩に担ぎ、誠士郎は微笑む。


誠士郎「剣士の特異存在は、僕。鷹羽誠士郎」


アキト(やっぱ自分に酔ってんなコイツ……)



誠士郎「魔導士は、《神楽のかぐらのつむぎ》の団長──神無月エレナ。衛士は、《天哭てんこく》の団長──れつ》……そして」



アキトの方をまっすぐ見て、指を差す。


誠士郎「銃士の特異存在は、君──ザイオンだ」


アキト「……」


ソフィア(こ、こいつほんっと苦手だわ……)


ゼクト(……ナルシズムの権化、我、共鳴できず)


ノア(うわ〜〜〜……こういう“自分、選ばれし者です”系の人……一番苦手なタイプや〜〜)


誠士郎「なお、治癒師・影刃士・奏術士の“特異存在”はいまだ判明していない」


 その瞬間、三人がピクリと反応する。


ソフィア(……治癒師って、もしかして私……?)


ゼクト(影刃士……それは、我か? ふ……運命だな)


ノア(奏術士って、うちやん!? え、うちもチート枠ってこと!? あれれ〜?)


誠士郎「……それじゃ、僕は行くよ」


 そう言って、誠士郎が酒場の扉に手をかけ──


アキト「……なんか、あいつムカつくな」


 ポツリとこぼし、ノアの方へ視線を送る。


アキト「おいノア。あいつに一発、お前の歌、お見舞いしてやれ」


ノア「えっ、ええの!? ……まっかせとき!」


 ギターを構え、ニヤリと笑うと──


ノア「響けッ! 《ソニック・バフ》〜〜〜ッ!!」


 かき鳴らされた不協和音が、タイミングよく扉越しに響き渡る。


誠士郎「ん、なんだこの──ぐあああッ!?!?」


 バァンッ!!


 扉を開ける直前、音の波に襲われた誠士郎がその場に崩れ落ちた。


ソフィア「……まさかの正面ヒットね」


ゼクト「“音の呪い”──その破壊力、万象を砕く……」


アキト「──よし、スッキリした。帰ろうぜ」


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