第10話《激闘の果て、空に刻むは蒼の閃光》
──ダンジョン《迷いの湖》・ボスエリア《蒼哭竜ヴェルグラーデ》
天井を貫くほどの巨体。蒼き鱗に覆われた咆哮の竜が、大地を震わせる咆哮を放つ。
その一撃で、ソフィア、ゼクト、ノア──三人の体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。
(ズガァァァン!!)
アキト「──ッ!!」
竜が首をもたげ、顎下の魔核が脈打つ。
膨れ上がる魔力。空間がひずみ、水の渦が竜の口元に集束していく。
《蒼哭竜の吐息》──魔力と水圧を凝縮した大技が放たれる、その直前。
アキト「来い──《セレスティアル・バースト》!!」
アキトの銃口が光を纏い、一点に収束した純白の魔力が奔流となって撃ち出された。
(ズガァァァァン!!)
二つの圧力が激突し、爆発が起こる。閃光と衝撃が戦場を包み、地面が裂け、空間が揺らぐ。
アキト「ぐっ……クソ、やっぱり……」
攻撃は命中した。確かに竜は怯んだ。だが──決定打には至らなかった。
アキトの背後、壁に打ちつけられていた3人が、かすかに呻き声を上げる。
ソフィア「アキト……っ、まだ……戦って……」
ゼクト「……我らの命……預けた……」
ノア「うちの……ギター、ちょっと壊れたけど……アキトはん、信じてるで……」
アキトは静かに銃を構え直す。そして、目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。
アキト「……なら見せてやるよ、こっからが本気だ」
次の瞬間──空間が、震えた。
アキト「──展開、《アストラル・レイン》!!」
銃の周囲に、五つの光点が浮かび上がる。それはやがて矢のような形をとり、淡く輝く光線となって空中に配置された。
キィィィィン──
そのすべてが、ヴェルグラーデを正確に捉える。
アキト「撃て」
五条の光線が、時間差で発射される。
(ズドォォォォン!!)
前後左右、上空から──ありとあらゆる角度から、光の雨が竜を襲った。
キィィィィィィィンッ!!
鋭く光が収束し、そこから放たれるのは無数の光線。追尾、貫通、爆破──全てを兼ね備えた殺意の嵐。
蒼哭竜の巨体に、それらが容赦なく突き刺さる。
ズガァァァァンッ!!!
バチバチバチッ!!!
ドォォォォォンッ!!
竜の鱗が爆ぜ、肉が裂け、咆哮が空間を震わせる。
ヴェルグラーデ「グギィィィアァァァッ……!!」
のたうち回る巨体。圧倒的な威容は、今や撃ち抜かれる標的でしかなかった。
ギュイィィィィン……!
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ!
五機の光弾が次々と射出され、天井、地面、側面──あらゆる角度からボスを挟み撃ちにしていく。
ズバァァンッ! ドゴォォン! ビシャアァァッ!!
衝撃で水飛沫が吹き上がり、岩壁が抉れ、魔力の余波が空間を揺らす。
ノア「うわ……えげつな……」
ソフィア「これ……本当にアキト一人でやってるの……?」
ゼクト「……神威、か……。もはやその弾道は、天からの裁き──」
アキト「ッ……ハァ、ハァ……っらぁああああああ!!」
アキトの叫びと共に、最後の一撃が炸裂した。
ドギャアアアアンンンッ!!!
閃光と爆音が交差する。直撃を受けたヴェルグラーデの巨体が吹き飛ばされ、後方の岩壁に叩きつけられた。
──そして、沈黙。
だが──
アキト(……まだ、終わってねぇな)
確かな気配は、まだ消えていない。
アキトは銃を構え直し、緊張感を解かないまま、薄煙の向こうを見据えた。
煙の奥、崩れた瓦礫の影──そこから、ズズッ……と、引きずるような音が響いた。
ヴェルグラーデ「……ギ、ィ……アアア……!」
その姿は、もはや満身創痍だった。
蒼き鱗はひび割れ、翼は焼け焦げ、脚も引きずっている。
だが──まだ立ち上がろうとしていた。
アキト(……しぶてぇな)
アキトは、静かに右手を挙げる。
銃口が、竜の心臓を捉えた。
アキト「……これで終わりだ」
彼の背後、空間が収束する。
光が集まり、星が瞬くような輝きが形を成す。
アキト「──《セレスティアル・バースト》!!」
閃光。
それは、天を貫く一条の光線。
銃口から放たれた一点集中の魔力が、一直線にヴェルグラーデを貫いた。
ズドォォォォォォォォンッ!!!
蒼き竜が、断末魔の咆哮を上げる。
体内から炸裂するように、爆光が広がる。
波紋が、空間ごと震わせた。
──そして。
すべてが、静寂に包まれた。
蒼哭竜──撃破。
アキトは、ゆっくりと銃を下ろす。
アキト「……これで、本当に終わりだな」
その呟きは、誰にも届かぬ静かな勝利宣言だった。
《セレスティアル・バースト》の光が消え、竜の身体が青い粒子となって空に溶けていく。
静寂。
次の瞬間──
《ボス:蒼哭竜ヴェルグラーデを討伐しました》
《討伐報酬が配布されました》
《ZION専用報酬:蒼哭銃ヴェルクレア》を獲得しました。
目の前に、青く輝くウィンドウが浮かび上がる。
そこには、新たに追加された装備品の情報が表示されていた。
⸻
《蒼哭銃ヴェルクレア》
レアリティ:SS
属性:水
効果:
・貫通弾、爆裂弾、偏向弾を任意に切替可能
・水属性の魔力攻撃を追加ダメージとして付与
・※使用者ZIONのみ装備可能
⸻
アキト「……マジかよ。こんなもんまで用意されてたのか……」
銃のデータをぼんやりと眺めながら、肩で荒い息をつく。
全身が鈍く痛む。スキルを連発した反動と、仲間を庇って受けたダメージが蓄積していた。
──そして、ふと振り返る。
床に倒れたまま動かない、ゼクト・ソフィア・ノアの姿。
アキト「……おい、お前ら。……生きてるよな?」
返事はない。だが、ログウィンドウに彼らのHPバーが表示され──かすかに、動いている。
アキト「……チッ、ギリギリかよ。無茶しやがって……」
アキトはふらつきながらも歩み寄り、順番に肩をゆすっていく。
アキト「ゼクト、起きろ。お前の中二病ポエムで場が湿っぽくなる前に起きてくれ……」
アキト「ソフィア……回復魔法得意なんだろ? 今こそ自分に使えよ……」
アキト「ノア……お前、音痴でもいいからスキル撃てる程度には回復してくれ……」
──少し遅れて、ゼクトがわずかに目を開けた。
ゼクト「……我は……生者か……?」
アキト「ゾンビじゃねぇなら、ありがたく思っとけ。命拾いしたな」
続いて、ソフィアとノアもゆっくりと身体を起こす。
どの顔もボロボロで、満身創痍だったが──確かに、生きていた。
ソフィア「……あんた……最後、また全部ひとりで……」
ノア「うち、最後のほう……記憶あらへん……でも、勝ったんやな……?」
アキト「まあな。お前らが倒れるから、無理して撃ったわ……」
ふと、ログに再び目をやる。
アキト「……それにしても、ヴェルクレアか……この世界、どこまで本気なんだよ……」
そう呟きながら、アキトは新たな銃を手にする。
アキト「──よし、さあ帰ろうぜ」
今回でついに、蒼哭竜との決戦が決着しました!
スローライフ(?)を楽しんでいたアキトが、ついに本気を出した回です。
《アストラル・レイン》と《セレスティアル・バースト》、どちらも極限状態の演出としてこだわりました。
専用装備も今後の展開で活躍予定です!
次回からは少し日常に戻りつつ、新たな展開が始まります。お楽しみに!