佐久間真3 西暦2150年 駆逐艦「不知火」
火星高軌道 第6宙域/駆逐艦〈不知火〉艦橋
「本船は合法航行中だ。申請書類は提出済みのはずだが?」
通信回線越しの声は、明らかに苛立っていた。
声の主は不知火の艦橋に映る旧式の輸送船の船長だ。
輸送船の船体には改造の痕跡がはっきりと残っており、船舶登録とは一致していない部分が多すぎた。
佐久間修司艦長は、無表情のまま応答した。
「地球軌道外の改造は伝統的に寛容とされていますが、現在火星周辺域は臨検強化宙域です。
不一致のある機体には、義務としてスキャンを実施させてもらいます」
「……いつから、貨物船まで兵器扱いされるようになったんだか。地球人はいつも俺たちを目の敵にしやがる」
「規則を決めたのは私じゃない。それにこれ以上状況を悪化させないための措置なのです。ご理解いただけますか」
「はいはい、そういう事にしてやろう、さっさとやるがいいさ」
通信が切れ、スキャンが実行される。
結果は問題なし。ただの食料と精製金属だった。
佐久間は軽くため息をつく。
「――次の船は?」
「三分後に〈エクリプス・ベリル〉が接近。未登録。船体構成データなし」
「またか……」
副長が苦笑交じりに言う。
「この調子じゃ、終わらんですね。一つ臨検を終えるたびにどんどん新しい船が現れる」
「この広い宙域に艦が一隻じゃ足りない。それに、こんな強制臨検を続けていたら、火星側に不信感を与えるだけだ」
艦隊司令は何を考えているんだ、と彼は心の中で付け加えた――
「治安維持」の名の下に、火星似募る憎しみを感じずにはいられなかった。
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そのとき、艦橋に警告アラートが鳴り響いた。
情報士官が顔をしかめる。
「緊急報告!第4宙域で臨検中だった駆逐艦〈ラグエル〉が撃沈されました。」
佐久間の背筋が硬直した。
「……撃沈? なにがあったんだ」
「詳細は不明なれど、貨物船の臨検中に攻撃を受けていると通信があり、30秒後に通信が途絶、近隣の艦から撃沈が確認されました」
佐久間は背中に流れる汗を感じた。
駆逐艦ラグエルは臨検中だったのでエネルギースクリーンは展開していなかったのだろうが、それでも戦闘艦が簡単に沈められるわけがない。
情報士官が続けて言う
「フォボス管制より状況速報、ラグエルから撃沈前に送信されたデータとによると、同じ宙域にいた火星艦〈タナトス〉からの攻撃を受けたようです。
接近する火星艦に対し、ラグエルは警告を発していたものの、船が進路を維持、接近を続けたため威嚇射撃を行ったところ、火星艦からのレールガンによる射撃による応戦を受けた可能性が高いと報告されています。」
艦橋が静まり返った。
誰も言葉にしなかったが――それが何を意味するか、全員が理解していた。
「旗艦〈リュシフェル〉より全艦通信。緊急コード発令。全艦フォボスステーション宙域に即時集結。
本時刻をもって、火星自治政府との交戦状態への移行が宣言されました」