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銀河人類連合記   作者: おりおん
火星独立戦争
4/9

セイナ・クレヴィス4 西暦2150年 火星自治圏

火星自治評議会・学術局本部


鉄灰色の会議室に、研究者と政治家が揃っていた。


セイナ・クレヴィスは、緊張を押し隠して報告書を卓上に差し出した。

補佐官がテーブルに座る者達に、「機密」と大きく表紙に書かれた文書を配布し、壁面のホログラフに図像が投影される。


---


「以上が、遺構から読み取られた構造信号と、それに含まれていた座標情報の分析結果です。結論から言えば――この記録は、火星では得られない観測データを含んでおり、恒星間航行を経験した文明の残滓と考えられます」


室内が静まり返った。


一人の男が口を開いた。

フレデリク・トゥール議員。評議会の軍事・資源政策委員であり、火星独立強硬派の一人。

鋭い目つきと軍服めいた黒の上着が印象的だった。


「つまり君は、この遺構が恒星間航行技術の鍵を握っていると?」


「そう断定はできません。ですが、可能性は否定できません」


フレデリクは腕を組み、しばらく黙考した。


「このデータ、評議会内での秘匿指定にすべきだな。研究報告書も非公開に。科学局からの再確認を待とう」


別の議員が即座に反論した。


「馬鹿を言うな。こんな重大な発見、火星の民衆が知らねばならん。我々の手で、世界に発信するべきだ。地球より先に、宇宙への門を開くのは火星なのだ」


そこから数分も経たぬうちに、会議は対立の渦に呑まれていた。

地球協調派 vs 自立推進派、技術保守派 vs 公開主義者──争点は無数にあった。


セイナは目の前で、知の成果が政治的駆け引きに飲み込まれていく様子を見ていた。



---


報告の二日後。

火星ドーム都市内、ニュースホログラムに速報が走る。


> 「学術局の内部資料が流出:火星地下に“恒星間文明の遺構”か」

「火星評議会、情報隠蔽の疑い──地球政府が正式照会」

「“遺構”とは何か:解析者S.C.の証言録」



セイナは食堂の隅でそれを見ていた。

映像には、彼女がかつて発表した研究草稿の一部が映っていた。

まだ内部アクセス権のある者しか見られないはずの文面。


唖然とするセイナの隣にユーリが座り、紙カップのコーヒーを彼女に差し出す。


「……誰かが故意に流したな。議会内部か、それとも……科学局の勢力か」


「どうして……」

セイナの声は、震えていた。


「セイナは人の良い部分を信じすぎる。あの発見は刺激的すぎたんだよ。

人類が宇宙に出て長いけど、今だ地球外生命体の発見も、恒星間航行も実現していない。それに地球に有利に立ちたい勢力からは、この情報は特に魅力的に見えるだろうね」

「…」

セイナは答えず、ただ黙ってホログラフを見上げた。


> 「地球政府報道官:『火星の一部勢力が、人類全体の利益を危うくしている』」

「フォボス軌道上、地球艦隊に警戒配備」

「緊張高まる中、火星政府は“発表予定なし”の声明」




世界が、変わり始めていた。

知識は火を灯す――それが照らすのか、焼き尽くすのかは、もう誰にもわからなかった。

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