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九 山人の爺様

 爺様は、娘らの尻を常に追っかけているわけではない。普段は獣を狩ったり、山菜を取ったりと山に住む民としての生業を果たし生活をしていた。其の合間に生娘を見つけ楽しんでいた。

 その日は獲物にも娘にも遭遇することなく昼過ぎに自分のあばら家に帰ってきた。

「そういえば、ここ数日婆様の姿を見てないのう。まぁ、何もなければその内に、帰ってくるだろう」

さして心配もせず楽観的に独り言を言いながら柄杓で甕の水をすくった時だ。爺様の喉元に冷たい刃物の刃が触る感じを覚えた。

「お静かに。誰もおらぬところ勝手に上がり込み申し訳ない。旅の連れがケガをし、寝込んでおります。しばし、休ませては頂けませんか」

「されば、刃物をおさめなされ。この様な年寄りには何もできはせんよ」

刃物が離れたことを確認し爺様は振り向いた。そこには旅姿の男一人とけがを負い横たわった女が一人いた。そして、男が言った。

「詳しくは申せません。私達は公儀の者です。急ぎ江戸の上役に届ける書状があるのですが、連れがこの有様です。毒矢を受けました。まだ息がありますがここ、二、三日で死ぬでしょう。私は直ぐに江戸に向かいます。このものが死んだら土に埋めてやってください」

そう言って小判を一枚手渡し、風のように去っていった。

残された女を見るとかなりの痛みがあるはずであるが、歯を食いしばり物音ひとつ立てずに耐えている。

 「傷は右二の腕だね。少し見せてみなさい」

爺様は、優しく女の肩を起こし傷口を見た。毒矢が切り裂いた様な状態であった。傷口から血とともに毒が体に回る様だ。既に傷口周りから壊死が始まっていた。

「よいかな、これから腐った肉を切り取り、火傷をさせ血を止める。そして、傷口に薬草を張る。かなり痛むが、運が良ければ助かるかもしれん」

そして、爺様は腰の山刀の刃に酒をかけ右腕の腐った肉をえぐり切った。その後、酒を口に含み傷口に吹きかけ唇を付けて思い切り毒を吸い出した。それを五回ほど繰り返し、出血を止めるため鎌の刃を火で炙り傷口にあてわざと火傷をさせ止血した。最後に大麻おおあさの葉をもみ張り付けた。

 女は小柄であるがそうとうな武術の鍛錬をしたのだろう、無駄な肉が無く骨太の体つきであった。かなりの痛みにもかかわらず、脂汗を流していたが声一つ上げずに耐えた。そして、薬草を煮出した茶を椀に入れ飲ませた。

 「マムシの毒は傷口から肉が腐る。多分、同様の毒だ。明日の朝まで息があれば大丈夫だ。この山刀は助廣という。ワシを拾い育て山人の生き抜く知恵教え込んでくれた師匠の形見だ。これの御蔭で師匠もワシも、何度も生き永らえた。お前さんも必ず確かる」

女は小さくうなずいた。そして、大麻の薬効成分のおかげで痛みが少し引いたのか寝入った。

爺様は娘好きの変態であるが何十年と山に入り獲物を狩り、それを生業にしていた。医術、薬師の経験などあるはずはないが、山に生きる者の知恵と経験が女を救った。


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