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七 座敷の朝

 夜が明け朝日が昇り始めた。弥伊里は東に駒ケ岳、中野岳、八海山と勇壮な魚沼三山お望み、西の魚野川に向けて扇状地が広がる。この地方は越後有数の豪雪地帯であるが、その雪のおかげで水が良質で肥えた土地が広がり夏は西瓜、秋は米、魚野川の魚とうまい酒と自然の恩恵を受けた里村だ。

 朝の静寂の中、桜は目を覚ました。ゆっくり目を開くと小綺麗な座敷の天井が見えた。【ここは、何処だろう】自分の記憶を辿ってみる。【確か、紅姫という小娘に神通力を掛けられ若い娘に生まれ変わり、十里先の里村の村主屋敷を目指し歩き、屋敷の前で倒れた】それ以降の記憶が無い。

「目が覚められましたか。ゆっくり眠れましたか」丁寧な言葉使いで弥生が聞いた。

 声の方に目をやると薄紅色の髪に蒼い瞳の気立ての良さそうな娘が座布団の上にチョコンと座っていた。

「紅姫様ですか?」

 曖昧な記憶と寝起きの目の錯覚による疑心暗鬼のまま問いただした。

「よく、お分かりになられましたね。先日、お会いした時は山池の祠の前でしたね。今はこちらの養子娘の弥生と名乗っております。既にお話しましたよね。人の子でもなく、神と呼ばれるほど立派なものではないと。しかし、あちらの時が私の素であり、今は少々上品ぶっていますね。まだ、朝も早々で御座います。もう一眠りなされたほうがよろしいかと。こちらを少しでもお飲みください」

 そう言って、茶碗の薬湯を勧めた。

「薬草と私の血液を少々と熊の胆、などを煎じた物です。疲労回復と若返った身体と精神を同調させてくれます。必要のない物事も同時に消してくれますよ」

 かなり不味かったのだろ。布団から体を起こし茶碗の液体を一口すすった。匂いよりも、あまりの不味さに、美しい顔が歪みそのまま布団に倒れ込んだ。

「もう一日くらいは、寝ておられたほうが良いでしょう。紅姫と弥生は同一であることは忘れて頂きます」

静かに襖を閉め、弥生は座敷を出て行った。


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