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十八 次の時代

 昭和二十年八月一日午後十時三十分から、翌八月二日未明午前零時十分にかけ、新潟県長岡市はアメリカ軍のB29の焼夷弾により1480人余りの死亡者を出す、世に言う長岡大空襲を受けた。

 八月一日午後五時四十五分、野上祥子は背中に野菜を背負い長岡駅に降りた。母親の実家のある坂之上に野菜を持って来た事と、幼い時から懐いており歳の離れた兄のように慕っていた叔父の川上偀龍の戦死通知がきた事を確認に来た。去年の盆休みに偀龍にあったのが最後となった。当時、偀龍は東京帝国大学文学系教育学科に籍を置き、卒業後は長岡に帰り教師として生きることを志望していた。しかし、同年十月の徴兵適齢引き下げにより大学休学による学徒出陣により南方に派遣され、現地にて戦死を遂げた。

「祥子ちゃん、お疲れ様。重かったでしょう」

モンペ姿の叔母の紗栄子が改札口で出迎えてくれた。去年の、夏休みに来た時は偀龍が学生帽を被り笑顔で手を振って迎えに来てくれた。暗い駅構内から外に出ると真っ青な空が広がり長岡の街並みが出迎えてくれた。祥子は、偀龍に手を引かれ坂之上の屋敷まで歩いていくことがとにかく嬉しかった。しかし、今年は違う。今にも泣きじゃくりたいことを抑え込み作り笑顔で挨拶をかわす。

 「お父さんお母さんは元気。祥子ちゃんも背が伸びたわね」

わざと、偀龍の話題にならないように気を使っているのが、よく分かった。

 「はい、宮内はなにも変わりはありません」

取り敢えず、社交辞令で言葉を返すのがやっとだった。宮内とは上越線の隣駅にあたり、祥子の母親は、坂之上から宮内の大農家に嫁いだ。しばし、無言のまま坂之上の屋敷まで歩いた。陽は西に傾いていたが信濃川から吹く川風の心地の良い夏の夕暮れだった。



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