十七 気まぐれと刃が取り持つ運命
そして、弥生が話し始めた。
「有難う御座います。父様、姉様、お二人に話さなければいけない事がございます。私は、西国の足軽頭の娘で小夜という名前でした。刀は、私が兄様と慕っていた刀匠館槻甲子郎が唯一打った刀です。戦国末期のこと、兄様が病死され一年後敵兵に打たれ私も死んだのです。しかし、風の龍に乗り世の中を漂っておられる紅姫様という神に近い存在に魂を拾いあげられ、その御方が昇天された後その体を依り代に私は、新しい紅姫として生き返ったのです。
そして、何するでもなく龍に乗り漂う日々。まれに、傷んだものを食べ、腹を壊し、排泄物を漏らし、それを被ったものは変化し、気まぐれに赤子になり人に拾われたり、小娘の姿で人の子の運命に関わったりで、じつは姉様をこの屋敷に差し向けたのも私の気まぐれからなのです。刀の事など忘れていました。今、再開したのは本当に偶然でございます。しかし、刀がこの地まで流れてきた、私も気まぐれに任せてこの地にきた。この地にきた姉様に、刀達の話が夢に出てきた。これだけ偶然が重なるとこれは既に運命というしか御座いません。そろそろ、私が紅姫としてすべきことは終わり、次の姫に引き継ぐ時が来たのかもしれません。最後に姉様に神の薬をお渡しします。これは男の竿、女の急所に塗れば若返り子をなす事ができます。父様、姉様、夫婦となり子を作りこの家を繫栄させて下さい」
そう言い終わると薄紅色の煙に巻かれ弥生の姿が消えた。
この後、二人は年の離れた夫婦となり姫神の秘薬を使うことなく三人の子をもうけて、この家は繁栄した。そして、一人目の男子を甲子郎、二人目の女子を小夜と、三人目の女子を弥生と名付けた。いうまでもなく、妖刀はこの家の守り刀と成った。




