第十三話 裏切り?
ビエントが議会場の外に駆け出すと、そこでは激しい戦いが繰り広げられていた。
魔獣と人が入り乱れて戦っている。
その中心に居るのは、炎に包まれた剣を振るうブレアと、巨大なアックスを軽々と振り廻しているヴェルクだ。
「おっと、これはこれは、早い段階で大物のご登場か。お前ら邪魔だ。そこを退け」
ヴェルクが大きく振りかぶって振り下ろしたアックスの刃が地面に刺さると、地面を割って大きな亀裂が走り、それと共に生み出された突風が、敵味方関係なく、更には魔獣を吹き飛ばしてその先に立つビエントに迫る。
ビエントが目の前で槍を地に刺すと、向かって来た突風は二つに分かれて吹き抜けて行く。
嬉しそうに笑みを見せたヴェルクは、地面から引き抜いたアックスを頭上で軽々と廻しつつ、ビエントに向かって駆け出した。
それに合わせてビエントも槍を引き抜くと同時に駆け出した。
ヴェルクが大きく振りかぶったアックスは、その大きさを感じさせない尋常ではない速さで、向かって来たビエントの頭頂に向けて振り下ろされた。
地面さえ割るそのアックスを、ビエントは槍先のたった一点で受け止めた。
アックスの重さに加えてヴェルクはその体躯の重さを加えて圧を掛けるが、ビエントの槍はびくともしない。
「何て力をしてやがる」
「力は入れとらんがな。ほれ」
ビエントが槍を一突きすると、ヴェルクのアックスは簡単に弾かれてしまった。しかし、ヴェルクも弾かれたアックスを直ぐに横に向け、体を廻転させて今度は横薙ぎにビエントに斬り掛かる。
ビエントはこれを跳び上がって躱し、そのままヴェルクに突き掛かる。
ヴェルクはアックスの刃を横にして盾代わりにし、槍の突きを防ぐ。
「年を食ってる割にはよく動くな。さすがは五賢人って所か」
「ほう、私を年寄り扱いか。なら、お前はまだ青二才と言う所かな」
「言ってくれるぜ。なら、こう言うのは━━」
アックスを振り上げようとしたヴェルクが言い終えるより早く、駆け込んで来たブレアが炎に包まれた剣でビエントに斬り掛かった。
「おいおい、邪魔しないで貰えねぇかな」
「知るものか! 魔法大学校の創立者にして校長であったこのビエントは、私の獲物だ!」
ビエントの槍も風を纏っているのか、ブレアが振るう剣を槍先で弾く度に、炎が渦を巻くようにして辺りに飛び散る。
「やはり相当な恨みがあるようだな。しかし、それではクリスタが悲しむだけだぞ」
「黙れ! 復讐を果たしてこそ、クリスタは喜んでくれるはずだ!」
心成しか、ブレアの露出している肌が最初よりは赤みを帯びているようにも見える。
「まずいな……」
余裕を持ってブレアの剣を捌くビエントだが、その顔には焦りが見える。
「先生!」
議会場の出入り口から、フラムが駆け出して来た。その傍らには、フリードの姿もある。
「加勢します!」
更には、何処かの国の衛兵か護衛なのか、腕に覚えがありそうな剣士や魔獣召喚士らしき者達が、次々と議会場の出入り口から駆け出して来る。
「全く、せっかく五賢人と一対一でやれると思ったんだがな」
ヴェルクはアックスを大きく振り上げ、力一杯振り下ろして地面に突き刺した。すると地面に大きな亀裂が走る。
亀裂は戦っているビエントとブレアの元に走り、共に飛び退って間を割り、更に勢いそのまま議会場から出て来たフラム達の元まで達し、それを躱させる事で足止めになる。
ヴェルクの傍まで下がったブレアは、ヴェルクを睨み付ける。
「邪魔をするな!」
「おお、おっかねぇ。そんなに怒んなよ。あれだけ人が出てきちゃあ、潮時だと思っただけだろう」
「何を言う。せめてビエントと今出て来た女だけでも首を獲らなければ帰れるか」
「ああ、好きにしろ。俺は戻るが、お前にはここに戻って貰わないと困るからな」
「何ぃ?」
後ろを振り返ろうとしたブレアの動きが突然止まった。
目を見開いたブレアが視線を落とすと、腹部から棒状の物が突き出していた。
ゆっくりと後ろを振り返ると、ヴェルクがアックスの柄の先にある槍の様な尖った刃で、ブレアの背後からその体を貫いていた。




