第八話 盗賊団
フラム達は、盗賊団が居ると言う村の中央の広場にやって来た。
広場には、昼間にはなかった巨大な氷の塊があった。中には数人の村人達が逃げ惑う姿のまま閉じ込められている。
周りにも、氷の像と化した村人の姿が点在している。
盗賊団は、巨大な氷を背に、並んで立っていた。その数は二〇人程で、様々な武器を手に、醜悪な笑みを見せてフラム達を待ち構えていた。
フラム達が足を止めると同時に、盗賊団の中から取り分け屈強そうな男が少し前に出た。
「あの男が頭目のラドローだよ」
村長の背後に隠れるようにしてウィルがフラム達に小声で伝える。村長が家に残るようにと強く言ったのだが、どうしても行きたいとごねて、時間もなく、無理に付いて来てしまった。
「随分と待たせるじゃねえか。少し遊ばせて貰ったぜ」
「どう言う事だ? 今まで村人には手を出さなかったのに、今になってどうして村人を襲う」
「勘違いするんじゃねえぞ。今まで襲わなかったのは単なる気まぐれよ。それに、こうまでしないと指輪を渡して貰えそうにねえからな」
「何を言っておる。お前達が初めて村に来た時、持って行った指輪が村にある全てだと言ったではないか」
「指輪……指輪……もしかして……」
「ん?」
呟くフラムの声に反応したラドローの目が向く。
「見慣れない顔だな。魔獣を連れている所からすると魔獣召喚士か。それにそっちも、身形からすると剣士か。まさか俺達をどうこうする為に雇った訳じゃねえよな?」
「そのまさかさ。二人とも強いんだからな!」
村長の後ろに隠れつつウィルが啖呵を切る。
「威勢のいいガキだな。まあ、誰を雇った所で一緒だがな。ただ、俺達に楯突いた事を後悔するなよ。おい、そこ開けろや」
盗賊団が二手に分かれ、開かれたスペースの後方から、大きな毛玉の塊の様な物が五つ、転がり出て来てラドローの少し前に出て来て止まった。すると、それぞれの毛玉の中から足が二本と頭が飛び出した。
「氷魔獣のヒュービか。あれが居るんだったら恐らく……」
「おい、何をブツブツ言ってるんだ。先に行くぞ」
フラムの横をフリードが駆け抜けた。
「俺は盗賊団を片付けるから、魔獣の方は頼んだぞ」
「ちょ、ちょっと! 勝手に━━」
止める間もなくヒュービに向かって行ったフリードは、ヒュービ達が何かをする間も与えない速さでその間を駆け抜けた。それはまるで風が駆け抜けるがごとく、その姿を見失ったヒュービ達が姿を求めて辺りを見廻す程だった。
「本当に勝手な奴ね。でも、そのお蔭で召喚する間が出来そうね。パル、村長さん達をお願い」
「任せるでヤンス」
パルはフラムの肩からウィルの頭の上に飛び移る。
フラムは既に身を屈め、右手を地面に下ろしていた。
「アルシオンボルトーア」
フラムの足元に現れた魔獣召喚陣の輝きにヒュービ達が反応し、フラムに向かって駆け出した。
素早く立ち上がったフラムも、召喚陣から出てそれを前に両手で印を組む。
「魔界に住みし炎の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
両手の印が形を変える。
「出でよ、炎魔獣フラーヴァ!」
光を増した召喚陣に驚いたヒュービ達が足を止める中、召喚陣の光の中から巨大なスライム状の物体が飛び出した。マグマのように真っ赤でドロドロとしたその物体は、意思を持っているかのように蠢いている。
「さあ、フラーヴァ。食事の時間よ!」
フラムが命を下すも、先に動いたのはヒュービ達の方だった。素早い動きでフラーヴァを取り囲み、一斉に口を開けると、勢い良く息を吹きかけ始めた。
真っ白くはっきりと見えるその息は、フラーヴァを一瞬にして氷の中に閉じ込めてしまった。
「お姉ちゃん、やられちゃったよ」
不安げなウィルの声が飛んで来る。しかし、
「慌てちゃダメ。これからが本番よ」
フラムが余裕の笑みを見せた次の瞬間、フラーヴァを包み込んだ氷が激しく蒸気を上げて溶け出し、一瞬にして水と化した。
蒸気を上げているフラーヴァの体が五つに分かれ、周りを囲む五匹のヒュービそれぞれに向かって飛び上がった。
ヒュービ達は、頭上で体を大きく広げるフラーヴァに合わせて素早く頭と足を体の中に入れる。すると、再び毛玉と化したその体が分厚い氷に包まれた。
降下してきたフラーヴァは、構わず氷の塊となったヒュービの上に落ち、その体を包み込んだ。最初は球体の形を保っていたが、徐々に形を失い、フラーヴァの元の形状で止まった。
五つに分かれたフラーヴァが蠢きつつ一ヵ所集まり、一つに戻った時、ヒュービ達は跡形もなく居なくなっていた。
フラーヴァはゆっくりとした動きでフラムの前で光っている召喚陣の中へと消えて行った。
フラムが手の印を解くと共に、召喚陣も消え去った。
「お姉ちゃん、凄いよ!」
目を輝かせて喜ぶウィルに、フラムはウインクで応える。
「さて、あっちは、と」
フリードの方に目を向けると、依然として盗賊団と戦ってはいるが、その半数程の盗賊が地に伏して倒れていた。
「何て強さだ……」
ラドロー達残っている盗賊団が少し気圧され始めたその時、近くの建物の陰から毛玉となったヒュービが三匹転がり出でて、盗賊団とフリードの間に割って入り、頭と足を出す。
フリードは、ヒュービ達が大きく口を開けるのを見て、素早く距離を取る。
そこにフラムが歩み寄って来た。
「おいおい、魔獣は頼むって言っただろう」
「ちょっと、人が取り逃がしたみたいに言わないでよね。あのヒュービ達は新手よ」
「新手?」
フラムは新たなヒュービ達が出て来た建物の陰に目を向けた。
「いい加減に出てきなさいよね。そこにいるんでしょう」




