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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第四章 動き出す歯車

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 第十九話 世界会議

 第一王子のデリオンを連れ去られ、混乱しているオルタニアの王族がいる貴賓席の近くに、アインベルクが従者と兵士を連れて姿を現した。


「これはこれは、アインベルク様に御座いませんか!」


 オルタニアの国王が王妃と共に席を立ち、アインベルクの前まで来て頭を下げる。


「急いで来たのですが、かなり被害が出てしまったようですね。申し訳ありません」

「いえ、来て頂けなければもっと大変な事になっていました。でも、アインベルク様は、こうなる事を知っておられたのですか? 事が起こってから駆け付けるのが、それこそ早いのでは?」

「ええ、ある情報筋から情報を得たのです」

「情報筋?」

「それ以上は言えません」


 口籠るアインベルクの元に、シャルロアが駆け寄って来た。

 肩にパルを乗せたフラムも、イグニアを連れて歩み寄って来た。ただ、イグニアはブレアを見てから魂が抜けたかのように表情を失い、いつものような元気はない。

 更にフリードも近寄って来て、少し離れて歩みを止める。


「あら、あなた達も来ていたのですか」

「アインベルク様こそどうしてこちらに?」


 訊いたのはフラムだ。


「そのことに関しては、後でゆっくり話しましょう。その前に、オルタニア王よ。今より三日後、世界会議を開催します。その旨、伝えに参りました」

「世界会議ですと!?」


 驚きの声を上げたオルタニア王だけではなく、その場に居る全員が、更には近くでそれを耳にした一般市民もざわつきを見せる。


「お待ち下さい。今我が国は次の王を決める大事な王位継承戦が行われている最中なのですよ」

「ですが、これほど街の人間に被害が出ては、立て直すのが急務と思いますが」


 アインベルクは少し離れて立つアルヴェス第二王子、クレメント第三王子に目を配らせる。


「見た所、デリオン王子がいませんね。先程の連中に連れ去られたようですね」

「どうしてそれを?」

「その事も世界会議を開く一因となります。事は一刻を争います。デリオン王子がいなくなってしまっては王位継承戦もないでしょう。日を改めて行うのが最善と思いますよ」

「確かに……分かりました。ですが、世界会議となりますと、いかな五賢人のアインベルク様と言え、たった一人で提言をなさるのはどうかと」

「今は一国の猶予もありません。それに、提言したのは私一人ではありませんよ」


 アインベルクが振り向いた先に、槍を持った年配の男が姿を現した。


「外にいた魔獣も粗方片が付いた。後はオルタニアの兵達で何とかなろう」

「ビエント様!?」

「先生!?」


 オルタニア王に続き、フラムも驚きの声を上げる。

 そこに現れたのは、五賢人の一人であり、風の魔獣召喚士を冠するビエントだった。


「五賢人の二人が提言してもまだ不服と申しますか?」

「いえ、とんでもない。三日後でしたね。直ちに準備を致します」

「場所はヴェルティエにあるルティアン議会場です。他の国々には既に伝令を出してありますからね」


 オルタニア王は王妃共々アインベルクに礼を済ませ、そそくさとその場を去って行った。


「ほう、フラムにイグニアではないか。久しいのお」

「先生!」


 今まで塞いでいたイグニアが、勢い良くビエントに抱き付いた。


「おお、どうした。随分と荒っぽい歓迎だな。それにしてもその先生と言う呼び名は止めてくれんか。とうに私は魔法大学校を辞めた身だ」

「辞めようが私達にとって先生は先生です」

「そうですよ……」


 顔を上げたイグニアの目に光る涙に、ビエントは驚く。


「一体どうしたのだ?」

「クリスタの……クリスタの姉が……」

「クリスタの姉? そうか、ブレアに会ったのか」


 フラムとイグニアは驚きの目をビエントに向けた。


「先生はブレアを知っているんですか?」

「お前達は当事者でもあるから、伝えておくべきだったかもしれんな」


 ビエントはイグニアの頭を優しく撫でる。


「ブレアとクリスタは元々は身寄りがなく施設で育ったんだが、それぞれが別の家に引き取られる事になったらしい。あの事故があり、私が直接クリスタが引き取られた家にクリスタの身柄を送り届けたのだが、唯一の肉親だとその場にブレアを呼ばれていてな。その時初めて二人の身の上を聞かされた」

「そんな事が……」

「あんな姿になったクリスタを見たブレアはとても落ち込んでおってな。その数日後、引き取られた家から飛び出して消息を絶ったと聞いた。責任を感じ、行方を探させてケイハルトと共に居ると情報を得ておったのだが、この目で見るまでは信じられんかった。だが、どうやら事実だったようだな。何とも因果とは残酷なものよ……」


 ビエントは、ブリュンデル城が去って行った空を虚し気に見上げた。

 

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