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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第四章 動き出す歯車

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 第十五話 深まる不安

 試合が終わってからも、コロッセオの周りでは多くの店に多くの人が行き交い、祭りの様な賑わいが続いていた。

 その一角の地面に突如として大きな穴が開いた。

 何事かと人々が怪訝に見つめる中、穴からは地下から逃げて来た失格者達が次々と姿を見せる。

 その中にパルを肩に乗せたフラムとシャルロアの姿もあった。オロドーアは目立つからと召喚陣の中に戻してある。


「あなた達はこのまま街を出た方がいいわよ。見つかったら捕らえられてどうされるか分からないから」

「あんた達は行かないのか?」

「私は王位継承戦に出なきゃなんないのに、逃げる訳ないでしょう」

「あんたはいいが、そっちの子は俺たちと同じ失格者だろう」

「シャルロアには指一本触れられないわよ」


 不思議に思いながらも、余りゆっくりもしていられず、他の生き残った者達は街の外れに向かって去って行った。

 さて、自分達もとフラム達が歩き出そうとした時、騒ぎを聞きつけた数人の兵士達が駆け寄って来た。


「ちょっと待て、そこの二人!」


 大勢の人が居る中で兵士達がフラム達に気付いたのは、フラムが通過者である以上に、シャルロアの服装が目立つ上にシャルロア自身が先程の大会で良くも悪くも目立っていたからだろう。


「そっちの女、お前は失格者だろう。おとなしくこっちに来い」


 シャルロアは怯えるようにフラムの背後に隠れる。


「一体何の真似よ。私は大会の通過者で、この子は私の連れなのよ」

「いくら通過者の連れだろうが、失格者は全員拘束しろと命令されている」

「拘束ですって? いいのかしら。この子はアルファンド国の王女なのよ。拘束なんかしたら外交問題になり兼ねないわよ」


 その場を囲む兵士全員だけでなく、近くで様子を見ている人々もざわつきを見せる。


「下手な言い訳はよせ。こんな所にアルファンド国の王女が居る訳がないだろう」

「今は修行にって王妃様直々に言われて私が預かっているだけよ。まあ、信じる信じないは自由だけど、あなた達も知っているはずよ。王妃様はあのアインベルク様なのよ。もし怒らせると、この国も一瞬にして氷漬けになるかもね」

「凄い脅し文句でヤンス」

「でも、お母様なら遣り兼ねませんけど」

「でヤンスね」


 兵士達も真偽を決め兼ねて、難しい顔を見合わせている。ただ、何もせずにこのままと言う訳には行かず、


「分かった。拘束はしない。ただ、上官の判断を仰ぐまで余計な事をせぬように、監視を付けさせて貰うぞ」

「面倒臭いわね。まあ、私も王位継承戦が終わるまでは事を荒立てたくないし、勝手にすれば」


 話が纏まると、兵士の一人が隣の兵士に何か耳打ちする。それを受けた兵士は軽く頷き、何処かに走り去って行った。

 それを見たフラムも肩に乗るパルに耳打ちし、頷いたパルが走り去った兵士を追って飛んで行った。


「パルさんはどちらへ?」

「後で分かるわ。さあ、行きましょう」

「あの、そちらは城の方では?」


 歩み出そうとしたフラムの行く手は街の方ではなく、城の方を向いていた。


「通過者には城に特別室が用意されているらしいわ。二人は十分に泊まれるようだし、行きましょう」


 城に向かうフラム達を言っていた通り四人の兵士達が後を付いて来た。

 城に着くと部屋の案内係に付いて行き、用意された部屋に着いた。その間も兵が二人に減ったものの監視役が付いて来て、勝手に出歩けないように、部屋の外で待機している。


「へえ~、さすがにいい部屋ね……」


 広々とした空間に、壁際に豪奢なベッドが二つ並んでいる。


「て言っても、シャルロアには普通でしょうね」

「いえいえ、とんでもない」


 とは言いつつ、部屋に入って来た時にはシャルロアはさほど驚いた様子はなかった。

 フラムは真っ先に窓へと向かい、少し体を乗り出して外を見廻した。


「そろそろだと思うんだけど……あ! 来た来た」


 合図を送るように何度か手を振ってから部屋の中に体を戻すと、それと入れ替わるように外からパルが飛び込んで来た。


「どうだった?」


 パルは曇らせた顔を横に振りながらフラムの肩にとまる。


「ダメでヤンス。二人目の伝令が皮と骨になっていたでヤンスよ」

「そう、今回の変態オヤジはかなり警戒心が高いみたいね」

「一体何の話ですか?」

「兵士の一人が事の次第を上に伝えに行ったみたいだから、後を付ければ誰がアルドが分かるかもってパルに追わせたんだけど、口封じされてたみたいね」

「そうだったんですね。私はただただ怖くて、姿を探す事も出来ませんでしたし」

「そもそも姿は見せなかったでヤンス。ああ、そう言えば、あの男も見た気がするでヤンスよ」

「あの男?」

「ほら、昨日フラムが追って行った奴でヤンスよ」

「何ですって!? あんた何でそんな大事なことを早く言わないのよ!」


 フラムはパルの口の両端を持って強く引っ張る。


「ら、らって、確信ら持れなかっらでヤンス。らにせ、突然りえたでヤンスよ」

「何言ってるか分かんないわよ。まあいいわ。でも、あいつは忙しいって言ってたけど、狙いは変態オヤジなのかしら……」


 ようやくフラムが手を離すと、パルは痛そうに頬を押さえる。


「明日も只では終わりそうもないわね」

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