第十四話 パルの奮闘
悲鳴が聞こえて来た方に目を向けると、何処からか伸びて来た無数の触手が失格者達の体に巻き付き、その先が口の中に入る事でその体が一瞬にして骨と皮に変わって行く。
「またあいつでヤンス! まずいでヤンスよ!」
パルは慌ててシャルロアを探す。
そんなに離れていない場所に、オロドーアと共に倒れている姿があった。
気を失っているのか、シャルロアとオロドーアは動く様子がない。
「急ぐでヤンス!」
鉄格子の間はパルが通るには少し狭かったが、何とか通ろうと試みる。
「い、い、痛いでヤンス……」
必死になって体をこじ入れていると、引き延ばされたグミの如く顔を歪めながらも、何とか向こう側に通れた。
休む間もなくシャルロアの元まで飛び、頭の傍に舞い降りる。
「シャルロア、起きるでヤンス!」
何度か呼びかけると、ようやくシャルロアが目を覚ました。
「あ、パルさん。おはようございます」
「挨拶している場合じゃあないでヤンスよ!」
「何を慌てられているのですか? あれ、ここは一体……わっ!?」
シャルロアとパルの体にも触手が巻き付いた。
「これはあの時の!」
「まずいでヤンス!」
オロドーアに目を向けると、まだ気を失って倒れたままだ。
「こんな時に寝ててどうするでヤンスよ!!」
パルが吐き出した炎が、倒れているオロドーアの顔に直撃する。
血相を変えて起き上がったオロドーアは、自ら冷気を噴き出して顔を覆っている炎を消化する。
誰だと言わんばかりの顔をパルに向けるが、
「怒ってる場合じゃないでヤンスよ! 早くシャルロアを助けるでヤンス!」
パルの言葉で状況を把握したのか、慌ててシャルロアの体に巻き付いた触手を掴み、引き千切った。
パルも自ら炎を吐き出して触手を燃やし、難を逃れた。
「オロドーアさん、助かりました。有難う御座います」
「オイラも助けたでヤンスけど」
「す、すみません。パルさんも、有難う御座います」
「何か、ついでに聞こえるでヤンス」
パルが肩を落とす中、牢に入れられた失格者は、いつの間にか半数ほどが皮と骨だけにされていた。ただ、生き残った者達も魔獣を使って反撃に出始めると、触手は元来た場所へと消えて行ってしまった。
「どうやら諦めたでヤンスね……ん? あいつは!」
触手を追って忽然と消えた人の影があった。
ほんの一瞬の出来事であったが、その姿は前日にフラムが追っていたあのローブの男にも見えた。
「見間違いでヤンスか?」
見えたのはパルだけだ。ただ、どのみち忽然と消えては、追いようもない。
「何なのよ、ここは……?」
聞き覚えがある声に視線を向けると、鉄格子の向こう側にはフラムの姿があった。
「フラム!」
「フラムさん!」
パルとシャルロアはフラムの元に急いだ。
「一体何があったの?」
鉄格子越しに話し掛けるフラムに、パルは事の顛末を話した。
「またあの変態オヤジがいるの。なるほど、魔力を得る為にこんな小細工を……」
露骨に嫌な顔をするフラムの口から深いため息が洩れる。
「それで、今度は誰に取り憑いたの?」
「姿は見せなかったでヤンス」
「今度は用意周到な奴って事か。兵士を動かせる事からすると、それなりの地位にある人間って事でしょうけど」
話をしている間に、生き残っている他の失格者達は魔獣を使って入口を破壊し、外に駆け出して来た。
「ちょっと、あなた達。そっちに行くと殺されるわよ」
出口に向かおうとした失格者達をフラムが呼び止める。
「殺される?」
「この先に兵士が魔獣を連れて待ち構えているわよ。それもかなりの人数でね。私は一人だったから隙を見て抜けて来たけど、その人数じゃあ、無理でしょうね」
「俺達は何もしてねえのに、何で殺されなきゃいけねえんだよ」
「元々殺す気だったんでしょうよ」
「そんな……」
言葉を失う者、愚痴を溢す者と様々だが、一様に表情を曇らせる。
「どうすんだよ。逃げようにも出口はあっちにしかねえんだろう」
「ちょっとちょっと、あんた達も魔獣召喚士なんでしょう。出口がなければ作ればいいだけの話でしょう」
「あ、なるほど!」
フラムの助言で意気を取り戻した失格者達は、それぞれが穴を掘る事に長けた魔獣を召喚し、近くの壁を掘らせて新たな出口を作り始めた。




