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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第一章 悪魔の科学者
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 第七話 交渉成立

 村長は血相を変え、ラルヴァが居るはずの部屋に向かった。


「ラルヴァさん、盗賊団が来ましたよ! 出て来て下さい!」


 何度呼んでも返事すらなく、ドアを叩くも全く応答がない。

 仕方なくドアを開け放ったが、明かりが灯っていない部屋、綺麗に整頓されたベッド、開け放たれた窓を見て全てを悟り、愕然と膝から床に崩れ落ちた。


(だま)された……これでもう村は終わりだ…………」


 暫くへたり込んだまま絶望感に苛まれた村長は、ゆっくりと立ち上がり、呆然としたままゆっくりと部屋に入る。

 どうしようもなく、拳を握って打ち震える中、


「お父さん!」


 聞こえて来た声に後ろを振り返る。

 部屋の入り口に立っているウィルの姿に、思わず流しそうになった涙を何とか堪える。


「ウィルか。お前が言っていた事が正しかったよ。あのラルヴァと言う魔獣召喚士は役に立たない人間だったよ。いや、それどころかお金を持って逃げてしまった。これでもう、村はおしまいだ」

「そんな事ないさ。こんな事があるかもしれないからって、お姉ちゃんが残っていてくれたんだ」

「お姉ちゃん?」


 ドアの陰からフラムが姿を見せた。その肩には、いつものようにぱるがとまっている。


「あなたは確か……」

「昼間に紹介した魔獣召喚士のフラムさんだよ。剣士のフリードさんが居なかったのは残念だけど……」

「あのキザ男、諦めないって言ってたくせに、結局居なくなるんだから、口だけの男だったって事よね」

「まあまあ。でも、お姉ちゃんだけでも残ってくれたんだ。これで村も安心だよ。ねえ、お姉ちゃん?」

「任せなさい」


 それでも村長は素直に喜べなかった。


「残ってくれたのは嬉しいが、逃げた魔獣召喚士に渡したお金は村中からかき集めたものだ。もうこれ以上、人を雇うお金は残っとらんのだ」

「そう、確かにタダ働きって言うのもね……」

「そんな……」


 全員が肩を落としたその時、


「金ならここにあるぜ」


 開け放たれた窓から、声と共にフリードが飛び込んで来た。そのまま村長に歩み寄り、ラルヴァから奪い返した金貨が入った袋を渡す。


「これは、儂があの魔獣召喚士に渡したお金だ」

「さっき逃げようとした所をとっちめて、取り返してやったのさ」

「お兄ちゃんもちゃんと残っててくれたんだ」

「もちろんさ。口だけの男とは思われたくないんでな」

「あれ? もしかしてさっきの言ってた事聞いていたの? ちょっと、そこに居たならとっとと出てきなさいよね」

「おいおい、サギ男だ、口だけの男だって言われて、普通出て行けるか?」


 照れ隠しの逆ギレも、そう言われては押し黙るしかない。

 そんな中、お金が戻って来たはずの村長は、まだ浮かない顔をしていた。


「ただ困ったな。このお金は一人分として用意した金だ。もうこれ以上、村にお金はありはしないし、わざわざ残っていただいているのに、どちらかだけ雇うと言うのも酷でもあるし、半分で納得していただくのも……」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」


 親子揃ってすがるような目をフラムとフリードに向ける。


「ちょっと、ちょっと、そう言う目で見るのは止めてよね。そうだ、もしその倍のお金を払う気があるなら、こう言うのはどう。今はそのお金を半分ずつ貰うとして、盗賊団を片付けて奪われた金品を取り戻す事が出来たら、そこから残りのお金を払うって言うのは?」

「そうして貰えるのなら、こっちにとっても願ってもない事だが」


 村長の視線が、フリードに移る。


「俺も別に構わないぜ。どうせ金が入るんならな」


 話がまとまりかけたその時、


「村長! た、大変だ!」


 大声と共に、家のドアを激しく叩く音が聞こえて来た。

 その場に居る全員が急ぎ外へと向かうと、ドアを出たそこに一人の村人が立っていた。


「お、お前、その腕は!?」


 村人の右腕が分厚い氷に包まれているのに、村長は目を丸くする。


(ひょう)魔獣にやられたのね」


 村長の後ろから出て来たフラムは、村人の凍っている右手を持ち上げ、横にして静止する。


「このまま動かさないでね。パル、お願い」

「任せるでヤンス」

「ま、魔獣が喋った!?」


 思わず声を上げた村人だけでなく、村長もまた目を丸くする。


「まあまあ、その説明は後で。さあ、パル」


 パルがフラムの肩にとまったままで、大きく口を開けと共に、フラムは村人の腕から手を放し、入れ替わるようにパルの口から吐かれた炎が村人の腕を包む。


「動かさないで!」


 驚いた村人が思わず腕を振ろうとしたのを、フラムの声が止めた。

 炎は直ぐに消え、村人に火傷を負わすことなく、腕を包んでいた氷だけを溶かしていた。

 パルは自慢気に胸を張る。


「その喋る魔獣は━━いや、それよりも。おい、いつまで腕を見ているんだ。一体何があった?」

「それが、盗賊団が新しく連れて来た魔獣にやられたんです」

「やられた? 今まで村人には一切手を出さなかったのに、どうして?」

「とりあえず、早く行った方がよさそうね」

「お二方、頼みます」

 村長はフラムとフリードに頭を下げる。そして、腕を凍らされた村人の先導で、その場の全員が後に続いた。

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