第七話 コンビ復活
「何なのこいつらは? 元々死んでいるから斬っても意味がないって言うの」
魔獣達は直ぐにフラムに襲い掛かって来る。
フラムも慌てる事なくまた一匹、更に一匹と斬って行く。しかし、魔獣達の傷は塞がり、果てる事なく立ち上がり、次から次へとフラムに襲い掛かって来る。
「まったく、死魔獣とはよく言ったものね。これじゃあ切りがないわ。こんな魔獣を野放しにして逃げる訳も行かないし」
次第に疲れが出たのか、足が縺れてフラムは尻餅を突いてしまった。
そこに一匹の魔獣が飛び掛かって来た。
「しまった!」
やられる━━そう思ったその時、漆黒の魔獣は目の前で真っ二つになって地面に落ちた。
「どうやら間に合ったようだな」
フラムの前で背を向けて立っているのは、フリードだった。
「あんた、どうしてここに?」
「いや、街中でお前を見つけてさ。ほらよ」
フリードは手を貸してフラムを立たせる。
「パルも連れてないし、様子がおかしかったんで追って来たんだけどさ、途中で見失ってな。ようやく見つけたと思ったら、間に合って良かった」
話している間にも魔獣達が襲い掛かって来るが、フリードは苦もなく簡単に切って行く。しかし、最初に真っ二つにした魔獣が、引き合う様にして綺麗に傷口が合わさりながら塞がって元の一匹に戻る様を見て、目を丸くする。
「どうなってんだよこいつは? 何なんだ、この魔獣……」
「元々死んでるから斬っても死なないのよ」
「元々死んでる!? 何だそりゃあ」
「説明している時間がないから、少しだけそいつらの相手をしていてちょうだい」
「相手って、お前、死なない相手にどう相手しろって言うんだよ」
「別に殺さなくてもいいのよ。私に考えがあるから」
「つまり時間稼ぎって事か。しゃーない」
ただ斬るだけならフリードには造作もない。しかし、漆黒の魔獣達は斬っても斬っても復活して襲い掛かってくる。
その間に、フラムはその場にしゃがみ、右手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
魔獣召喚陣が現れると共に立ち上がり、それを前に印を組む。
「魔界に住みし炎の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
両手の印が形を変える。
「出でよ、炎魔獣フラント!」
召喚陣が光り輝き、その中からフラントが飛び出した。
「フラント、あっちに居る魔獣達を全て燃やしちゃって!」
咆哮を上げたフラントは、狭い路地の中、フリードの頭上を軽々と飛び越えると、体を包む炎の火力を上げ、飛び掛かって来た漆黒の魔獣達を上手く躱しつつ炎に包んで行く。
炎に包まれた魔獣達は、苦しむ間もなく灰となって消え去った。
「さすがに燃やしちゃえば元には戻れないみたいね」
「やるな」
「当然よ」
フラムはフラントを召喚陣の中に戻してから印を解き、召喚陣を消した。
「それにしても、あの魔獣は何なんだ? 元々死んでるって聞いた事もないぞ」
「私だって知らなかったわよ。さっきの男はルディア様も知らないって言ってたけど」
「さっきの男って、お前が追っていた奴か。知ってる奴なのか?」
「それは……やめとくわ。あんたは関わらない方がいいかも」
「何だよ、水臭い」
「大体、あんたに言った所で理解出来ないでしょう。結構複雑な話なのよ」
「複雑な話か。だとすると、確かに俺には無理かもな」
「でしょう。まあ、とにかく助けて貰ったのは事実だから、ちゃんと礼は言っておくわ」
「礼だったらほら、ここに」
フリードが口に指を差すと、直ぐにフラムの平手がフリードの頬に強烈な一撃を与える。
「まったく、直ぐに調子に乗るんだから。せっかくこっちは礼を言ってるのに。大体あの時人の初めての━━もう、いいわよ!」
背を向けたフラムは、怒っているのが分かる足取りで先にその場から去って行った。
残されたフリードは、痛む頬を摩りながら顔を顰める。
「また怒らしちまったな。あん時は思わず見惚れてしちゃったんだけど、俺にとっても初めてだったんだけどな……」




