第二話 再会
振り返ったその先に立っていたのは、フラムをライバル視する魔獣召喚士のイグニアだった。
「やっぱり……」
「またでヤンス」
「お知合いですか?」
「さあ?」
「違うでヤンス」
「ちょっとちょっと、知らん振りして行こうとするんじゃないわよ」
イグニアは物凄い勢いでフラムとの差を詰める。
「あんたの事だから王位継承戦には絶対に来ると思って来たんだけど、予想的中ね」
「まさかあんたも出るつもりじゃあないでしょうね」
「当然参加するわよ。これに参加したら、さすがにあんたも逃げられないでしょう。ようやく真剣勝負が出来る場が整うんだから参加しないって選択はないわよ」
「別に逃げてる訳じゃあないんだけど」
嬉々とするイグニアとは対照的に、フラムの顔は曇るばかりだ。
そんな中、あちらこちらから騒がしい声が聞こえて来る。それに合わせて人々が声がする方へと向かって行く。
「まったく、血気盛んな連中が集まって来ると、あっちもこっちも喧嘩ばかりで━━ん? あれって、この間のあんたの連れじゃない?」
「連れ?」
人だかりの中心で大柄な男と何やら揉めている男の顔に、フラムは見覚えがあった。
「あの男、確かライオとか言う魔獣召喚士でヤンス」
「魔獣相手に腕試ししていたみたいだから、あの男も王位継承戦に参加しに来たんでしょうね」
「フラムと違って、腕試しが目的でヤンス」
「何よ、お金目的が悪いみたいに言わないでよ」
「御蔭でこっちは助かるわよ。あんたがお金目的だからこそ行動が読みやすいから、こうやって先回りも出来たんだし。今度こそ決着を━━ん?」
イグニアが周りを見廻すと、さっきまであったフラム達の姿がない。
「もう、また逃げた!」
フラム達は、少し人の少ない通りを歩いていた。
「やっぱりお知り合いだったのですね」
「だから違うって」
「あっちが勝手に寄って来るだけでヤンス」
「そうそう、イグニアに関わるとろくな事にはならないのよ」
「そうなんですか。何か、私に似ているような」
シャルロアは苦笑いするしかない。
「お、そこに居るのはフラムじゃないか!」
名前を呼ばれて思わず振り向いた先に、懐かしき顔があった。
「フリードでヤンス!」
「あいつも来てたのか」
「どなたですか?」
「フリードって言う旅の剣士。ちょっと色々あって、一度だけ同じ仕事をした事があるのよ」
「色々でヤンスね」
意味深な目を向けるパルに、殺気立ったフラムの目が合い、慌ててパルは顔を背ける。
その間にフリードが歩み寄って来た。
「何だ。お前も王位継承戦に参加しに来たのか?」
「その口振りだと、あんたも同じみたいね」
「まあな。ダルメキア中から強い奴が集まって来るんだぜ。参加しない手はないだろう。ん? ところでそちらの可愛いお嬢さんは?」
「は、初めまして。シャルロアと言います!」
フラムが止める間もなくいつもながらに低姿勢なお辞儀に、やはり周りの視線が集まり、フラムとパルは溜息を合わせる。
「随分と礼儀正しい子だなあ。お前とはまるで正反対だ」
「確かに、それは当たってるでヤンス」
「どう言う意味よ!」
「そう言う所は相変わらずだな。仲が良さそうで……良さそうで……」
突然後ろに感じた殺気に、強張った表情をフリードが後ろに向けると、一人の女剣士が立っていた。その表情は、冷ややかさと怒りが明らかに汲み取れる。
「エレーナ……」
「随分と久しそうだけど、一体どなたなのかしら?」
「何かまた、危ない奴が出て来たでヤンス」
「喋る魔獣!? 見た目は可愛いけど、随分と口は汚いわね。いやいや、そんな事よりもあんたよ、あんた! 一体フリードとはどういう関係よ!」
迫りくるエレーナに、フラムの体がのけ反る。
「ど、どう言うって。何も━━」
「俺の結婚相手だよ」
「なっ!?」
突拍子もないフリードの発言に、その場の全員が驚き、凍り付く。
フリードは直ぐにフラムの耳元で囁いて来た。
「話を合わせてくれ」
「なんでそんな事しなきゃいけないのよ」
「あとでちゃんと謝礼はするからさ」
「謝礼!」
フラムの目が一瞬嬉々として輝くが、直ぐに首をを激しく振る。
「冗談じゃないわよ。謝礼でどうこう出来る事じゃないでしょう。大体誰なのよ一体?」
「同じ先生の下で剣を学んでたエレーナって言うんだけど、俺に勝ったら俺と結婚するって言い出してさ。先生の下を離れてからも顔を合わせる度にこんな調子なもんで、困ってるんだよ。何とか話を合わせてくれよ」
「無茶言わないでよ」
コソコソと話している姿がエレーナの怒りに拍車をかける。
「フリードと結婚するって言うんなら、私に勝つ自信はあるんでしょうね!」
エレーナは怒りに震える手で剣を抜いた。




