第一話 王位継承戦
氷の国と呼ばれるコンヘラルド地方を少し南下し、防寒着がいらなくなった所にあるオルタニア国、そこはアルファンド国と肩を並べるほどの大国であった。
シャルロアを伴ったフラムは、オルタニア城の城下町を訪れていた。もちろん肩の上にはパルの姿もある。
多くの人出と飛び交う人の声の賑わいに、シャルロアは目を白黒させて右に左にと忙しく顔を動かしている。
「お祭りでも行われているのですか?」
「少し違うわね。王位継承戦が行われるのよ」
「王位継承戦?」
「オイラも知らないでヤンスよ」
「シャルロアは国が近いのに知らないって言うのもね」
「お母様は余り他国の事は教えてくれませんでしたので。そう言う事は魔獣召喚士として一人前になってからで良いと仰って」
「アインベルク様はどうしてもあなたを氷の魔獣召喚士の後継者にしたいみたいね」
「私が氷の魔獣召喚士に? とんでもない!」
シャルロアは激しく首を振る。
「まあ、今のままじゃあ無理でしょうね」
「確かにでヤンス」
「それはそれとして、王位継承戦は生きている間に一度行われるかどうかのものだから知らなくても当然ね。いいわ。一から説明してあげる。この国は建国当初、他の国同様に第一王子が王位を継承していたの。四代目の王まではそれで順調に国が統治されて来たんだけど、五代目の王の時に問題が起きたのよ」
「問題?」
「どうしようもない王だったのよ。国費は私費として使い込むし、女遊びやギャンブルに呆けて国政は放ったらかし、国は衰退の一途を辿ったって話よ」
「アガレスタの王子もそんな感じだったでヤンス」
「顔以前の問題ね。本当に結婚しなくて良かったわよね」
「本当にありがとう御座いました」
頭を下げそうになったシャルロアをフラムが慌てて止める。
人が多い中でそんな事をされれば、目立って仕方がない。
「それで、どうなったでヤンス」
「少しずつ民が他国に離反して、民が居なくなるのが先か、その前に他国に攻め込まれるか、どちらにしても国が亡ぶのは明白だったわね。そこで当時の王の弟であるアドリアン二世が立ち上がって王を国から追放し、新たな王に納まったってわけ。それ以来、新たな王を選ぶ時は第一王子に限らず、当時の下の王子並びに王女の結婚相手にまで王位継承権を与え、王位を争わせるようにしたの。その中で優秀な王を選ぶのが王位継承戦よ。そうやってこの国は繁栄を得る事が出来たんだって」
「子供が一人しかいない場合はどうなるでヤンス?」
「限りなく近しい王族の子供に継承権を与えて、必ず二人以上の候補者を立てて王位継承戦が行われて来たって話よ」
「へえ~、フラムさんは博学でいらっしゃるのですね」
「どうせ魔法大学校で学んだ事でヤンス」
「何が悪いのよ。ちゃんと覚えてるって事でしょう」
「まあまあ、お二人とも」
睨み合うフラムとパルを、シャルロアが諫める。
「それで、その王位継承戦と言うのは、王子様同士が戦うのですか?」
「いいえ、それをしてしまうと国を割っての争いにもなり兼ねないから代理を立てるのよ。まあ、それでも過去には争いが起こった事があるらしいけど、稀のようだし、それを治める力量も王としての資質と考えられているのかもね」
「代理をを立てると言うのは?」
「それそれ、私がここに来た理由は。全国からその代理になる為に腕自慢が集まって来るのよ。私も含めてね。その戦いが毎回面白いって噂だからそれを見に来る客も全国から集まって、それを目当てに商売人も集まるから、まあ、シャルロアが言った通りお祭りみたいな騒ぎになってるって訳よ」
「つまり、フラムさんは腕試しに参加されると言う訳ですね」
「違うでヤンス。どうせお金が絡んでるでヤンスよ」
「当然でしょう。代理に選ばれればそれなりの報奨金が得られるって話よ。これだけの大国だから、それなりって言ってもかなりの大金でしょうからね」
「フラム、顔が緩んでいるでヤンスよ」
「ウソ!」
横でフラムの顔を見ているシャルロアも頷いている。
「まあ、それも代理に選ばれればこそだけど。じゃなかったら、参加費だけが取られちゃう訳だけだから、シャルロアが言った通り単なる腕試しになっちゃうんだけどね」
「フラムさんなら大丈夫ですよ。お強そうですから」
「オイラからするとまだまだでヤンスよ」
「どの目線から言ってんのよ」
「まあまあ」
また睨み合うフラムとパルをシャルロアが諫める。
と、その時、
「やっぱりいた!」
何処からか飛んで来た声に、フラムとパルは露骨に嫌な顔をする。
「あの声……」
「聞き覚えがある声でヤンス……」




