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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第十九話 意外な男

 (さかのぼ)る事フラムがアルファンド城を出る少し前、鼻を鳴らしながら森の中を歩むドゥーブの後ろをエドアールが真剣な面持ちで付けていた。


「頼むぞ。全てはお前に掛かっているのだ。でなければ母上が……ああ、考えるだけで恐ろしい」


 エドアールの後ろを歩む数人の兵士と魔獣召喚士も、明らかに不安気な面持ちをしている。

 少しして、木々の奥に何かが見えて来た。


「止まれ」


 小声で兵士達を制止したエドアールは、歩みを止めないドゥーブを引っ張って止める。

 剣を抜き、警戒しながら歩みを進め、木々を抜けた先に、後部が凍り付いているフィールが地面に伏していた。既に息はしていない。

 全員が周りを見廻すが、ブレアと凍り付いたアルドの姿はない。ただ、地面に何か大きな物を引き摺った跡が残っていて、森の奥へと続いている。

 その跡を辿って行くと、少しづつ引き摺る音も聞こえて来て、それが徐々に大きくなって来る。そして、


「いたぞ!!」


 凍ったままのアルドを、鞭で上手く立てたまま引っ張っているブレアの姿を捕らえた。

 ブレアの方もエドアール達に気付き、鞭を手放して剣を抜き放った。


「逃がさんぞ! 必ず捕らえろ!」


 エドアールが連れて来ただけあって、兵士達の剣捌きはなかなかなものであったが、ブレアの剣捌きもさるもので、兵士達が次々と斬りかかっても全く寄せ付けない。

 ただ、エドアールの剣は捌き切れず、それでも受け止めて鍔迫り合いとなる。


「なかなかやるな。只物ではなさそうだ」

「女一人に大勢で掛かって来る人間の言葉ではないぞ」

「確かに。ただ、こっちも是が非でも連れて帰らなければならぬ理由があるのでな」


 兵士達が加勢に入ろうとするが、


「これ以上の加勢は無用。お前達はサウロンを召喚し、アルドを先に連れて帰れ」

「ですがエドアール様」

「私の腕を見縊るな」

「させぬ!」


 ブレアがエドアールの剣を弾こうとするも、エドアールがそれをさせない。


「早くしろ!」


 止むを得ず、兵士に促されて魔獣召喚士がしゃがもうとしたその時、上空から突風が吹き下りて来て、兵士達に尻餅を突かせ、エドアールとブレアの鍔迫り合いを引き離した。

 全ての視線が上を向く中、大きな影が降下して来る。

 それは翼を持つ(ふう)魔獣グリーゼだった。フィールやサウロンよりも大きな体で、その背中には長髪の男が乗っている。


「帰りが遅いので来てみたら、どうやらいい時に来たようですね」


 グリーゼに乗る男が、ブレアに声を掛ける。


「ラファール、何しに来た?」

「それはまた、つれない言い方ですね。助けに来たのではありませんか」

「余計な事を」

「そういう風には見えませんでしたが」


 ブレアは苦々しい顔をエドアールにぶつける。


「くそ、仲間が居たのか。逃がさんぞ!」

「グリーゼ!」


 ブレアに向かって駆け出そうとしたエドアールに、グリーゼが吐き出した突風が直撃し、吹っ飛んだエドアールは後方の木に激しく体を打ち付ける。


「エドアール様!」


 近くに居る兵士達が慌てて駆け寄って来る。


「さあ、今の内にアルドと共にグリーゼに乗りなさい。今はアルドを連れ帰るのが最優先です」


 止むを得ないと言った感じでブレアがアルドを縛る鞭を拾おうとしたその時、



「退いてくれ!!」


 何処からともなく男の大声が聞こえて来たと思ったら、木々の間から黒い影が飛び出し、凍っているアルドに激突した。

 

「あっ!!」


 凍り付いたアルドがゆっくりと倒れて行くのに合わせて、その場に流れる時間もゆっくりと感じる中、アルドが地面に倒れた刹那、その体はバラバラに砕けてしまった。

 グリーゼに乗るラファールは、大きな溜息を吐く。


「これではどうにもなりませんね。ブレア、ここは引きますよ」


 ブレアは苦々しい顔を大きく歪めつつもグリーゼに飛び乗った。


「待て!」


 引き留めようとするも、グリーゼが羽ばたいて生じた風に阻まれてエドアールはその場から動く事も出来ず、グリーゼは上昇して去って行ってしまった。


「あ痛、た、た、た……何だ今のは? 凄い風だったな」


 アルドにぶつかって倒れていた男がゆっくりと立ち上がる。

 男の顔を見たエドアールの顔が、驚きに満ちた。


「お前は、フリード!?」

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