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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第十八話 旅は道連れ

 城に戻る途中、四頭立てのボロンゴが引く豪奢な馬車と擦れ違った。

一瞬見えた客車の中には、アガレスタ王と王妃、そしてアドルフォ王子が乗っていたが、一様に沈んだ顔を伏せていた。



 城に戻ったフラム達は、そのまま応接室に向かった。


「おやおや、随分と派手にやっていたようですね」


 お部屋の奥にある窓は当然壊れ、大きな穴が開いたままだ。

 ずっと座っていたのか、アルファンド王は同じ席に着いたままで、アガレスタの三人同様に、暗い顔を伏せていた。

 アインベルクは、軽く首を横に振りながらその隣に座った。


「全く、私の言う事を聞かずに強引に話を進めるからですよ」

「その件に関しては申し開きの余地もない」


 フラムとシャルロアは対面に並んで座った。


「まあ、小言はほどほどにして、本題に入りますよ。先程アルドと申していましたが、私が訊いた話ではアルドは死んだと言う話ですが」

「はい、私もアルドの骨を見ましたし、暗殺されたと依頼した村の現在の村長に聞きました。ただ、アルドは自分が作った魔導具を使った者に、自分の意思を移せるように細工したそうです。前にも乗り移ったアルドに出会いましたし、その時はとても大変でした」

「なるほど、そう言う事ですか。アルドなら遣り兼ねませんね。それではもう一つ、あなたがクリスタと呼んでいたあの女性は何者ですか? どうやら知り合いのようでしたが」

「あれ、あの時もう居られたのですか? だったらどうして出て来られなかったんです?」

「もう一人のシャルロアの成長を見てみたかったものですから」

「意地が悪いですよ」

「その事に関しては異存はありません。私が直ぐに出ていればと、判断が甘かったです。それはそれで、どうなんですか?」

「オイラもびっくりしたでヤンス。クリスタにそっくりだったでヤンスよ」

「あら、パルちゃんも存じているのですか」

「クリスタは私が大魔法学校に居た頃の親友です。でも、ある事故に巻き込まれて死んでしまったんです」


 当時を思い出してか、フラムの表情は曇り、シャルロアも口を押さえる。


「あの女もブレアと名乗っていましたから、別人だと思います。ただ、クリスタの事を知っていましたし、私を殺すって言っていましたから、顔からしてもクリスタに関わりがある者だと思います」

「だとすれば、あなたを追いに行かせずに正解だったかもしれませんね」

「どうしてですか?」

「では、そのブレアと申す者が親友の血縁だったとして、あなたは戦えますか?」

「それは……」

「無理でしょう。相手が殺すと申している以上、顔を合わせばそうなるのは必定なのですよ。まあ、それはこれからあなたの運命が決める事でしょうが、それ以上に気になるのはアルドを連れ去った事です」

「そう、それなんです。何か悪い予感がして」

「それは同感です。とても個人的にどうこう出来る小物でもありませんし、後ろに誰か居ると言うならそれこそ大事です。まあ、その事はこちらで調べさせましょう。あなた一人より、人員を使えるこちらの方が早く分かるでしょうからね。それでフラム、あなたはこれからどうします? エドアールが帰って来るのを待ちますか? 吉報を持って帰れば良いのですが、そうでなければ……」

「何か、城門を潜らせないとか言ってたけど、それ以上の事が待っていそうね」

「笑っているのが余計に怖いでヤンス」


 小声で話すフラムとパルは、苦笑いするしかない。


「ゆっくりするなら部屋を用意させますよ」

「いえ、このまま行かせて貰います。次に行くところも決まってますし」

「そうですか。では、仕方ありませんね」

「もう行っちゃうんですか」


 今まで黙っていたシャルロアが、名残惜しそうな声を出す。


「ゴメンね。まさかこんなに長居になるとは思わなかったから、次に行く所まで時間が無くなっちゃって。もう行かなきゃいけないのよ。でも、時間が出来たら絶対にまた来るから」

「絶対ですよ……」


 フラムが頷いて見せるが、シャルロアの表情が晴れる事はなかった。




 城を出たフラムは、城下町を素通りし、城門を出て道を歩いていた。


「本当に怖い人でヤンス」

「言葉遣いには気を付けなさいよ。せめて怖いじゃなく厳しいとか言葉を選ばないと、さっきの一件の事もあるし、またお会いする事になるかもしれないんだから」

「もう勘弁して欲しいでヤンス」


 パルは頭を抑えながら首を振る。


「フラムさん! パルさん!」


 突然後方から聞こえて来た聞き覚えがある大声に振り返ると、シャルロアが手を振りながら駆け寄って来た。


「一体どうしたのよ? わざわざ見送りなんていいのに。それとも何か忘れものでもしたっけ?」

「いえ、そうではなくて」


 シャルロアは、弾む息を少し整えてから話し出す。


「お母様がフラムさんに付いて行けって」

「はあ!?」


 フラムとパルの驚きの声が揃う。

 よくよく考えると、周りに従者を従えていないのもおかしいし、シャルロアの格好も出掛けるスタイルだ。


「その方が私の修行にもなるだろうと仰って」

「何を勝手な事を言ってくれてるのよ。体よく押し付けているだけじゃないのよ」

「でヤンス」


 満面の笑みを見せるシャルロアに対し、フラムとパルは深い溜息を吐く。ただ、溜息の元はそれだけで済まなかった。


「いたぞ、あそこだ!!」

「姫様、お戻りを!!」


 数人の兵士が、血相を変えて向かって来る。


「シャルロア、あんたまさか、王様に断ってないんじゃあ」

「はい、お母様は何も言わなくていいと仰ったので」

「まったく、一緒にいる間は結婚話も出ないからって、悪魔だわ」

「フラム、来るでヤンスよ!」

「走るわよ」


 フラムと共に走り出したシャルロアの顔からは、笑みが絶える事がなかった。しかし、


「もう、これじゃあ誘拐犯じゃないのよ!!」

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