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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第十五話 変態オヤジ再び

 アルファンド王とシャルロアがゆっくりと目を開けると、離れた場所に居たはずのフラムとエドアールが目の前のテーブルの上に立ち、襲い掛かって来る触手を斬り落としていた。

 フラムの肩から飛び立ったパルも、炎を吐いて応戦する。


「動き出しもなかなか早いわね」

「お前もな。しかし何なんだ、こいつは」

「アルドよ」

「アルド? アルドって、あの科学者のか? どう言う事だ。確かアルドは先生が暗殺したって聞いたんだがな。それに、あいつは間違いなくアガレスタの宰相、ダルガンのはずだ」

「先生? そう、名のある剣士に頼んだって聞いたけど、あんたの先生だったの。確かにあの体はあんたの言うダルカンと言う宰相でしょうけど、その意識をアルドが乗っ取ったのよ」

「意識を乗っ取った?」


 触手の先が兵士の口に入り込み、何かを飲み込むような音を立てると、兵士達の体は徐々に萎んで行き、あっと言う間に骨と皮だけになってしまった。


「ひ、ひぃ……」


 残ったアガレスタの王と王妃、そしてアドルフォの顔が恐怖に引き()る。


「そこの娘、どうやら以前にも私の魔導具を使った者に出会っているようだな」

「ええ、随分と大変な思いをさせられたわよ」

「でヤンス」

「あいつの嵌めているあの腕輪はアルドが作った

魔導具なのよ。以前出会った奴は指輪だったけど、ああやって人の生気を集める事で魔力に変えて、その力で魔導具に残したアルドの意思を使った人間に移す事が出来るように細工をしてあるのよ。正に悪趣味な変態オヤジだわ」

「へ、変態オヤジだと!? 生意気な小娘が!」

「前にも同じ事を言われたわよ」

「そう言えば、最近アガレスタでは人が消えるという事件が多発していると聞いていたが、お前の仕業か?」

「そうだ。静かに準備を進めていたのだがな。最後になって誤算が生じるとは」


 残るアガレスタの三人の口にも、触手の先が入り込む。しかし、直ぐにフラムとエドアールが剣で、パルが炎を吐いて触手を寸断し、事なきを得た。


「そんなクズどもを助けるとは、馬鹿な連中だ。大した魔力にもならぬ奴の命などいらぬわ」


 アルドは突然走り出すと、フラムが突き破って開けた窓から外に飛び出して下に落ちて行った。


「あいつ!」


 慌ててフラムが後を追い、窓際から下を覗き込むと、アルドはフラムが上に飛び上がる時に使ったドゥーブをクッション代わりに使って着地し、上から降りて来られないように、ドゥーブをあらぬ方に蹴り飛ばした。


「まずいわね。あんな奴を野放しにしておくと、何をするやら」

「フラムさん、これを」


 後ろを振り返ると、いつ召喚したのか、シャルロアが二匹のドゥーブを連れていた。


「気が利くわね。でも、シャルロアも来る気?」


 下に降りる為のドゥーブだろうが、周りを見るとエドアールの姿はなく、二匹のドゥーブを連れていると言う事は、一匹はシャルロアが使うのだと察しが付く。


「ダメでしょうか?」

「どうせダメって言っても来るって顔してるわね。面倒な事にならなきゃいいけど。時間もないし一つだけ、私から絶対に離れないこと。いい?」

「分かりました」

「じゃあ、行くわよ」


 フラムはドゥーブを抱え、大きく穴が開いた窓から下に飛び降りた。

 直ぐにパルも後を追って飛んで行く。


「シャルロア、何処に行く!?」

「お父様、ごめんなさい」


 シャルロアもドゥーブを抱え、窓から外に飛び出し、下へと落ちて行った。そして、抱えたドゥーブをクッション代わりにして弾み、上手く地上に着地する。

 先に降りたフラムは辺りを見廻していたが、アルドらしき姿は見当たらなかった。


「フラム、近くには居ないみたいでヤンスよ」


 周りを探していたのか、飛んで来たパルがフラムの肩にとまる。


「どうやらもう城から出て、町の方に行ってしまったみたいね」

「どういたします?」

「ドゥーブ!」


 フラムの呼ぶ声に、遠くから一匹のドゥーブが駆け寄って来た。アルドに蹴り飛ばされたフラムが召喚したドゥーブだ。


「あんたを蹴り飛ばした子憎たらしい変態オヤジの臭いを覚えてる?」


 ドゥーブはまるで怒りを表すように何度も鳴き声を上げる。


「どうやら覚えているようね。オッケーよ。その臭いを追ってちょうだい。しっかりと仕返しをしてあげるから」


 任せとけと言わんばかりに軽く飛び上がってから鼻を鳴らして辺りを探り、ドゥーブが歩き出した。


「さあ、私達も行くわよ」

 

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