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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第十三話 いざ、アルファンド城へ

 馬車での移動とあって、アルファンド城までの道のりはさほど時間は掛からなかった。シャルロアが一緒ではないのもあったのかもしれないが。


「昨日はエドアールも大変だったでしょうね」

「でヤンスね」


 昨日エドアールがシャルロアを城に連れ戻した時にも、すんなりと帰ってはいないだろうと想像すると、馬車に乗るフラムとその肩にとまっているパルも、含み笑いせずにいられなかった。


「御二人方、間もなく着きますゆえ、心構えを」


 二匹のボロンゴの手綱を持つ執事が、客室に乗るフラムとパルに声を掛ける。



 馬車の行く手に、アルファンド城とその城下町を囲む城壁が見えて来た。

 初めにフラム達が訪れた時には閉まっていた巨大な城門は解き放たれている。ただ、数人の兵士が外から入って来る人々を入念にチェックしているのが見えた。


「そこで止まれ!」


 兵士に止められ、執事は通行証をみせるが、


「駄目だ。女王様の許可証では通すなと王様のお達しが出ている。さあ、帰れ」


 あっさりと拒否された。ただ、それは予想されていた事で、執事は構わずにボロンゴに鞭を入れる。

 二頭のボロンゴは前足を上げて(いなな)いてから一気に走り出した。


「こら、止まれ!! そいつを止めろ!!」

「退いて下さい!!」


 執事の声と馬車の暴走に、進行方向に居る人々は慌てて脇に逸れて行く。

 兵士達も立ち塞がって止めようとするが、ボロンゴの迫力に押されて寸前で避けるしかなかった。



 城下町の中を暫く激走した馬車は、ゆっくりとスピードを緩めてから止まった。


「フラム様、パル様、ここで降りて下さい」


 客車のドアが開き、フラフラしながらフラムとパルが出て来た。


「結構荒っぽいわね」

「追われない為ですゆえ、ご容赦下さい。後は私が(おとり)になりますゆえ、ここで失礼致します」


 執事はまたボロンゴに鞭を入れ、馬車を走らせる。


「その馬車止まれ!」


 後を追って来る兵士達の姿に、フラムは近くの建物の陰に身を隠す。


「さてと、後は城にどうやって入るかだけね」





 アルファンド城の応接室では、既にシャルロアとアドルフォ王子の顔合わせが行われていた。

 長いテーブルを(はさ)み、片側にシャルロアを真ん中にアルファンド王エドガー四世とエドアールが並び、対面にアドルフォ王子を真ん中にアガレスタ王と王妃が並んでいる。

 ずんぐりとした体に好みがあるとしても端正とは程遠い王子のその顔は、アインベルクが言っていた通りか。


「王妃様はいかがなされました?」


 アガレスタ王妃が訊く。


「王妃は少し体調を崩しまして。申し訳ございません」

「あら、それは大変ですわね」

「少しの間体を休めれば良くなると主治医が申しておりましたので、ご心配なさらずに」

「そうですか。この場に王妃様が居られないのは誠に残念ですが、婚約の儀をこの場にて行えるのは誠に喜ばしい限りです」


 双方が笑顔を見せる中、シャルロアだけが終始暗い顔を伏している。

 逆に終始ニンマリと鼻につくような笑みを浮かべているアドルフォ王子は、後ろを振り返る。


「ダルガン、例の物を」

「はい、少しお待ちを」


 席の直ぐ後ろに立っていたアガレスタの宰相ダルガンは、一旦部屋を退室すると、直ぐに一人の執事を連れて戻って来た。

 執事の手には大きなトレイがあり、ガラスの容器に何やら飲み物が入れられたものが乗せられている。

 執事は手際よく席に着く六人の前に飲み物が入ったグラスを置いた。


「アドルフォ、これは何だ?」

「私達も知りませんよ」


 アガレスタの王と王妃も訝しげに首を傾げている。


「私がダルガンに頼んでこの日の為に用意させたものです。珍しくてなかなか手に入らない品で、祝杯には良いと思いましたので」

「あら、我が子ながらなんて気の利く子でしょう」

「では皆さん、グラスを手に」


 ダルガンの掛け声に五人がグラスを手にする中、シャルロアだけは俯いたまま動こうとしなかったが、エドアールに促されて仕方なくグラスを手にした。


「それでは、両国の繁栄とここにアドルフォ様とシャルロア様のご婚約のお祝いを祝して、乾杯!」


 それぞれがグラスに注がれた飲み物を口に運んで行く。

 シャルロアもその場の流れでグラスを口へと近付けた正にその時、外に面した壁にある窓ガラスが派手に割れ、フラムが飛び込んで来た。

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