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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第八話 新しい仲間

 フラムは立ち上がり、召喚陣を前に印を組む。


「魔獣ヴァルボラガよ。今より我が下僕(しもべ)となりて、全ての命に従う事を我が最初の命とする……操縛(オルチェイン)!!」


 召喚陣から幾つもの稲妻の様なものが飛び出し、ヴァルボラガに電撃を与え始める。

 ヴァルボラガも何とか暴れて抗って見せる。

 冷気を吐いていたオロドーアとサウロンは疲れを見せ、冷気が弱くなって来ていた。


「パル、もしもの時は頼むわよ」

「任せるでヤンス」


 ヴァルボラガがフラムの方に向きを変えるのに合わせて、パルも大きく口を開ける。


「オロドーアさんも、サウロンさんも頑張って下さい!」


 依然としてシャルルの背後に隠れるブリーバは力になりそうになく、せめて応援だけでもとシャルルは声援を送る。

 それに応えてかオロドーアとサウロンは残る力を振り絞って吐く冷気を強める。


「私も頑張んないとね!」


 フラムが気合を入れ直すと、召喚陣から出ている稲妻の様なものが威力を増す。

 ヴァルボラガも必死の抵抗を見せ、フラムに向かって大きな口を開ける。その口から炎が洩れかかるが、突然体を纏う炎が消え、それと共に召喚陣から出ていた稲妻の様なものも消え去った。

 それを見てか、オロドーアとサウロンも冷気を吐き出すのを止めた。と言うか、限界だった様子だ。


「どうやら間に合ったようね。今日からよろしくね。ヴァルボラガ」


 ヴァルボラガは一吠えしてから召喚陣の光の中に消え、召喚陣も消え去った。

 それを見届けたサウロンは、少しヘロヘロになりながらも礼を言うように旋廻しながら一鳴きを残し、何処へとなく飛び去って行った。


「時間は掛かったけど、ヴァルボラガが手に入るなんて儲けものね。それも野生だからか、あの強さは特異種みたいだし」

「本当にタダでは転ばないでヤンスね」

「当然。あの依頼の報酬を考えると、労力が見合わないわよ。さてと、あとはそのブリュームの花を探すだけね」

 

 疲れてへたり込んでいたオロドーアが、突然立ち上がってシャルルに何かを訴え始めた。


「ブリュームの花なら生えている場所を知っているそうです」

「へ~、やるじゃないの」


 フラムが背中を叩くと、オロドーアは恐縮する仕草を見せる。

 またオロドーアの案内で付いて行くと、崖の上の方に数本の青い花が咲いている場所に来た。

 軽い身のこなしでオロドーアが崖を上り、数本のブリュームの花を採って戻って来て、シャルルに手渡した。


「何から何までありがとうございます」


 シャルルがオロドーアに対しても深々と頭を下げると、オロドーアも恐縮するように頭を下げる。

 

「魔獣と魔獣召喚士が頭を下げ合う光景って初めて見るわ」

「変わってるでヤンス」


 全てが終わり、サルセッテに戻る為に道を歩いているのだが、


「でもいいんでしょうか? 私が花を採っていないのに、報酬を貰ってしまって……」

「いいのよ。依頼した方は事の経由を知らないんだから。仕事ってそう言うもんよ」

「そうなんですか?」

「違う気がするでヤンス」


 話の途中、フラムとパルが勢い良く後ろを振り返ると、大きな影が横手にある道端に生える木の陰に隠れるのだが、大柄な体が完全に隠れ切ってない。


「付いて来てるわね」

「来てるでヤンス」


 呆れ顔で見詰める先には、完全にバレているオロドーアが木の陰からこちらを見ていた。

 アレリア山から今までずっとこの調子だ。


「どうして付いて来るんでしょうか?」

「決まってるでしょう。シャルルの召喚魔獣になりたいのよ」

「私の?」

「ちょっと待って!」


 突然フラムの表情が険しくなったかと思うと、周りの木々の裏側から、三人の男が姿を現した。


「性懲りもせずにまた来たの?」


 アレリア山に向かう途中でフラム達に襲い掛かって来た盗賊なのだが、フラムとパルにあっさりと蹴散らされてしまった。

 フラムは剣を抜こうとしたが、下品な笑みを見せて歩み寄って来た三人の盗賊達は急に驚いた顔をして、蟻の子を散らすように一目散に逃げてしまった。

 不思議そうに後ろを振り返ると、オロドーアがおっかない顔をして立っていた。


「ほらほら、どうしてもあんたのボディーガードをしたいみたいよ。ヴァルボラガと違って無抵抗でしょうから、早く操縛の印をかけちゃいなさいよ」

「いいんでしょうか?」


 オロドーアが慌てて何度も頷く姿に心打たれ、シャルルは操縛の印を掛ける事にした。

 フラムが言っていた通り、まるで抵抗もなく、操縛の印は直ぐに掛かった。ただ、そのまま召喚陣の中に戻るのを渋ったのだが、その大きな体が目立つので召喚したまま町に戻る訳にもいかず、シャルルに何とか説得されて、召喚陣の光の中に消えたのだった。


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