第七話 ヴァルボラガ
オロドーアの後を追って、フラム達は山間の谷間の道を進んでいた。すると、少しずつ熱気を感じると共に、周りの雪が溶けていて山肌が剥き出しになっている場所が目立つようになって来た。
やがて進行方向から、複数の魔獣と思われる鳴き声が聞こえて来る。
「何か居るのは間違いなさそうね。それも、一匹は炎魔獣って事か」
シャルルが氷魔獣と喋れると言うのは半信半疑であったものの、徐々に信憑性を帯び、そして確信へと変わった。
「本当に居た」
谷間の中でも少し開けた場所で、体に纏いし炎を滾らせる一匹の魔獣、それは紛れもなくシャルルがオロドーアから聞いたと言う炎魔獣のヴァルボラガだった。
「フラム、あそこにシャルルの錫杖があるでヤンス」
ヴァルボラガの近くの地面に、一本の錫杖が突き刺さっている。それは、特徴のあるシャルルの錫杖である事は直ぐに分かった。
「でも、どうしてあんな所に?」
その理由は直ぐに分かった。
ヴァルボラガが見上げる上空に、空を舞うサウロンの姿があった。
上空から滑空して来たサウロンが、口にくわえている大きな石をヴァルボラガに向かって落とした。
石はヴァルボラガに直撃したものの、さほど利いた風もなく、ヴァルボラガがサウロンに向かって炎を吐き出す。
サウロンも直ぐに上昇して炎が届かない所まで退避する。
「なるほどね。あのサウロンにとってもヴァルボラガは邪魔者って事ね。だから投擲出来る物を探して来てはああやってぶつけている訳だ」
「それで、どうするでヤンス?」
「これだけ周りに迷惑が掛かっているなら何とかしてあげたいけど、ヴァルボラガはなかなか近寄らせてくれないでしょうから……」
それを受けてか、オロドーアがシャルルに何かを訴えかける。
「足止めぐらいなら何とかやってみるって言ってますけど」
「オロドーアの冷気でヴァルボラガの炎が抑えられるかしら。まあ、やってみるしかないわね」
「それじゃあ、頼みます」
シャルルの言葉を受けてオロドーアは深く頷くと、ゆっくりとした足取りで静かにヴァルボラガに近寄り、上空のサウロンに気を取られているヴァルボラガに向かって冷気を吐き出した。
直ぐに気付いて向きを変えるヴァルボラガの体を氷が覆って行くが、体を覆う炎も火力が上がり、氷に亀裂が走る。
オロドーアも諦めずに必死に冷気を吐き続けるが、明らかにヴァルボラガの火力が勝って見える。
「やっぱりダメね」
ヴァルボラガが反撃の動きを見せようとした時、上空のサウロンが下りて来て、飛びながらヴァルボラガに冷気を吐き付けて加勢する。
「微力ながら、私もお手伝いさせて貰います」
シャルルは地面に刺さっている自分の錫杖を握る。
「アルシオンボルトーア」
錫杖を中心に魔獣召喚陣が光り輝き、錫杖を引き抜くと共に召喚陣を前にして錫杖を手にしたまま印を組む。
「魔界に住みし氷の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
シャルルの手の印が形を変える。
「あの召喚法、他にも使える人が居るのかしら?」
「確かにあの方に似てるでヤンス」
「出でよ、氷魔獣ブリーバ!」
召喚陣の光が増し、そこから飛び出して来たのは可愛さ満点の魔獣だった。
ブリーバは現れるなり、ヴァルボラガを見て驚き、シャルルの背後に隠れてしまった。
「ブリーバさん、頑張って下さい」
シャルルのが命令しても、ブリーバはガタガタ震えて動こうとしない。
「思い違いみたいね」
「でヤンス」
「仕方ないわね。そこの二匹だけでも頑張ってよ」
フラムは駆け出し、オロドーアとサウロンに冷気を吹き付けられて凍り付くのを何とか阻止しようと炎を燃やすヴァルボラガの近くでしゃがみ、右手を地に下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
ヴァルボラガの足元を中心に、召喚陣が現れる。




