第六話 オロドーアの歎き
雪崩れは直ぐに収まり、何事もなかったかのように一面の銀世界が広がっていたが、その一角の雪が徐々に解けだし、その下からフラントとフラム達が姿を現した。
「フラントが居て助かったわ」
ただ、山に着いた時点で息を切らしていたフラントは、その体に纏う炎の勢いもなく、その場にへたり込んでしまった。
「フラントももう限界のようね」
フラムは召喚陣を作り、その中にフラントを戻してから召喚陣を消した。
周りを囲む雪崩れの壁を崩しつつ何とかよじ登って直ぐに、今度は近くの雪がもそもそと動き出し、雪の下から雪飛沫を上げて巨大な物体が飛び出して来た。
「今度はオロドーア!!」
姿を見せたのは、二足歩行が出来る氷魔獣のオロドーアだった。体に付いた雪を体を震わせて払い落としている。
「さっきの雪崩れで一緒に流れて来たでヤンスね」
「ここまで来ると笑えて来るわね。ただ、フラントを戻したばかりだし、剣だけでオロドーアの相手を出来るかしら」
何度となく吠えるオロドーラに、フラムは剣に手を伸ばす。しかし、
「待って下さい。そのオロドーアに敵意はないみたいです」
シャルルが止める。
「敵意がないって、どうして分かんのよ? まさか魔獣の言葉が分かるとか━━」
「分かるんです」
「ちょっと、ちょっと、まさか、そんなはず。パルでも魔獣の言葉が分からないのに」
「でヤンス」
「いや、シャルルが嘘を言っているとも思えないけど……」
「いいんです。昔から誰も信じてくれませんでしたから。いえ、母上だけは信じてくれました。母上は私の魔獣召喚士の先生でもあるんですが、私が幼い時から遊び相手にって魔獣を召喚してくれて」
「何か私とパルの関係みたいね」
「でヤンス」
「昔から遊び相手が居なくて、魔獣ばかりと遊んでいる内に話が分かるようになっていて。ああ、ただ遊び相手は氷魔獣ばかりで、話が分かるのは氷魔獣に限られるんですけど」
「そうね、確かにそう言われてみると……」
会話している最中、オロドーアはフラム達を見てはいるものの、一向に襲い掛かって来る様子はない。かと言って、逃げるわけでもない。
「少し待って下さい」
シャルルは少し前に出て、オロドーアと向き合う。
「何か言いたい事でもあるの?」
オロドーアはそれに応える様に、その場で両手を動かし始め、吠えるような声で語り掛けて来た。
「……どうやら、この近くにヴァルボラガが居るそうです」
「ヴァルボラガ!? 炎魔獣の? どうして氷の国にそんなものが?」
「数日前に人間が来て召喚したみたいですね。でも、恐らく操縛の印が上手く行かなかったみたいで、ヴァルボラガを置いて逃げたみたいですね」
「力量を知らないバカって事ね。私でもまだヴァルボラガを呼び出せていないのに」
「そのせいで、最近になって雪崩れが多く発生して困っているらしいんです」
「なるほどね。今の話が本当なら、かなりの氷魔獣でもないと、ヴァルボラガに近寄る事さえ出来ないでしょうから。それで、何とかして欲しいってこと?」
「はい、そうらしいです」
オロドーアが急に背を向け、少し後ろを向いてシャルルに何か言ってから走り出した。
「付いて来て欲しいって言ってましたが」
「ヴァルボラガの所に案内するってこと?」
「どうするでヤンス?」
「まあ、付いて行ってそこにヴァルボラガが居れば、シャルルが氷魔獣の言葉が分かるって事の実証が出来る訳だし、オロドーアが罠を張るほど知識があるとも思えないし、とりあえず付いて行ってもいいかもね。あとは状況次第って所かしら」
「でも、いいんでヤンスか? シャルルの仕事が終わってないでヤンスよ。それに、錫杖の事もまだ残ってるでヤンス」
「確かにそうね……それじゃあ、シャルルに決めて貰いましょう。どちらもシャルルに関係ある事だから」
二人の視線がシャルルに向けられ、シャルルは思わず目を伏せる。
「私ですか? そうですね……」
ふっと前を向くと、オロドーアが立ち止まり、心配そうな顔をこちらに向けている。
「聞いてしまった以上、放っておけません。オロドーラに付いて行きたいです」
その言葉が理解出来たのか、オロドーアは笑った様に見えた。




