第五話 一難去って……
「パル、先に後を追って」
「任せるでヤンス。でも、足止めぐらいしか出来ないでヤンスよ」
「私が追いつくまで足止めしてくれれば十分よ」
ボロンゴの群れが徐々に離れて行くのを見て、パルがフラムの肩から飛び立って後を追う。
遅れてフラムも後を追う。
かなり走る事も覚悟していたのだが、町を出た所で直ぐに足を止める事となった。
「何なのよ、これ……!?」
驚愕の表情に満たされたフラムの目の前には、氷漬けになって動かなくなったボロンゴの群れだった。
「フラム、こっちでヤンス!」
少し離れた所に、地上に降り立っているパルの姿と、その前で気を失って倒れているシャルルの姿があった。
「どうなってんのよ、これは?」
歩み寄って来たフラムの肩に、パルが飛び乗って来る。
「分からないでヤンスよ。オイラが来た時にはもうこうなっていたでヤンス」
「シャルルがやったの……?」
その時、シャルルが目を覚ましてゆっくりと体を起こす。
「おはようございます」
「いや、おはようじゃなくて……」
目を擦りつつ立ち上がったシャルルは、ようやく目の前に広がる光景に気付き、目を丸くする。
「これはフラムさんがおやりになったんですか? 助けて下さったんですね。どうなるかと思いました。本当にありがとうございます」
いつものように頭を深々と頭を下げる。
「頭を下げられても、私じゃないんだけど。その様子だと、シャルルがやったって感じでもないようね。まあ、ボロンゴにパッポを召喚する人間が、こんな芸当が出来るとも思えないし。でも、だったら誰が……?」
「どうかなされたんですか?」
「フラム、考えていても仕方ないでヤンスよ」
「そうね、急がないと今日中に終わらないかもね」
謎を残しつつも、シャルルの仕事の遅さを考えて、先を急ぐ事にしたのだが、
「あ、錫杖が!」
突然上空から滑空して来た野生のサウロンが、シャルルの持つ錫杖を咥えて飛び立ってしまった。
直ぐに気付いたパルが、フラムの肩から飛び立って後を追う。
「今度は錫杖?」
フラムとシャルルも地上から後を追うが、直ぐに見失ってしまった。
「次から次へとどうなってんのよ」
「すみません」
「どうしてシャルルが謝んのよ」
「いえ、私が外に出るといつも次々と何かのトラブルに巻き込まれるんです」
「なるほど、何となくイグニアと同じ様な臭いはしてたけど、少し違う意味でトラブルメーカーって事か」
「イグニアさん?」
「それは気にしなくていいのよ」
二人が話し込んでいると、遠くからパルがゆっくりとしたスピードで戻って来て、フラムの肩にとまった。
「さ、寒いでヤンス」
ブルブルと震わせている体の振動がフラムの肩に伝わって来る。
「それで、サウロンは?」
「山の方に逃げたのは見えたでヤンスけど、それ以上は寒過ぎて追うのは無理でヤンス」
「もう、頼りにならないんだから」
「そんな事言っても━━ハックション!!」
「あの錫杖は母から貰った大切なものなんです。何とか取り返さないと。この先の山ならアレリア山だと思います」
「飛んで逃げたからドゥーブで探す訳にもいかないし、どの道行く場所なんだから、行くしかないわね」
この先の事を考えて、フラムは予めフラントを召喚した。同時にフラントが体に纏う炎で暖も取れ、パルの体の震えもようやく止まった。
サウロンを追ったパルが直ぐに戻って来た感覚からして、アレリア山への道のりはそう遠くはなかったのだが、予想通りと言うべきか、何匹もの野生の魔獣に襲われ、突然の吹雪にも遭い、盗賊にも出会い、そんな中でも何とかアレリア山まで辿り着いたものの、途方もない道のりを歩んだ感覚に見舞われた。
「何なのよ、本当に」
「疲れたでヤンス」
フラントさえも少し息を弾ませている。
「本当にすみません。私のせいで」
「トラブルメーカーも本物みたいね。ん? 今度は何の音?」
「雪崩れでヤンス!!」
山の上の斜面から、津波の如く雪崩が滑り落ちて来る。
「着いた早々何なのよ!」
直ぐに逃げ出そうとするが、雪崩れの勢いは凄まじく、フラント共々その場の全員があっと言う間に飲み込まれてしまった。




