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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第四話 災難の始まり

「ちょっと、ちょっと、何処に行くつもり?」


 仲介所を出て直ぐに歩み出すシャルルを、フラムが呼び止める。


「もう仕事は始まってるのよ」

「どう言う事でしょうか?」

「ブリュームの花が何処にあるか分かるの?」


 シャルルは首を横に振る。


「依頼になるぐらいだからそこらにあるような花じゃないはずよ。だったら先ず、現地の人に訊き込む事から始めないと」

「なるほど……」

「何かフラム、先生みたいでヤンス」

「伊達に今まで数多くの依頼をこなして来た訳じゃないわよ。さあ、早く行って」

「私がやるのですか?」

「もちろん、これはシャルルが受けた仕事でしょう。レクチャーはするけど、実際に仕事をするのはシャルルがやらなきゃ意味がないでしょう」

「……わかりました」


 意を決したように周りを行き交う町人達に歩み寄って話し掛けようとするのだが、声が小さく、歩みすら止めてくれない。


「あれじゃあ無理でヤンスよ」

「まったく、仕方ないわね」


 フラムは静かにシャルルの背後に歩み寄り、気合を入れるつもりで背中を軽く押した。

 驚いて小声ながら悲鳴を上げたのが功を奏したのか、一人の女性が不思議そうに歩みを止めてくれた。


「あの~、ブリュームの花が何処にあるかご存じないでしょうか?」

「花のこと? それならあそこに花屋があるから聞いてみれば」

「そうですか。誠にありがとうございます」


 余りに丁寧な礼に、女性も恐縮しながら去って行った。

 シャルルは一仕事終えたが如く大きく息を吐きだしてから、花屋に向かって歩み出した。

 一人の女性が店頭に置かれた花の手入れをしている。


「あの~」

「いらっしゃいませ!」

「いや、その、客じゃ……」

「どんなお花をお探しでしょう?」

「では、そのお花なんか」

「買ってどうすんのよ!」

「でヤンス!」


 傍で見ていたフラムとパルが慌てて突っ込みを入れる。


「すみません! すみません!」

「謝ってないで、早く聞き込み」

「あ、そうでした。あの、私はお客じゃないんです。ブリュームの花を手に入れたいのですが、何処に行けば手に入るでしょうか?」

「ああ、そうなの。ごめんなさいね。ブリュームの花ねえ。多分、アレリヤ山の崖に行けばあるかもしれないけど、結構大変な所にあるらしくて、うちにもなかなか入らない花だから、本気で行くなら気を付けてね」

「どうも、ご丁寧に心配までしていただいてありがとうございます」


 またまた深々と頭を下げるシャルルに、花屋の女性も恐縮する。ただ、直ぐに怪訝(けげん)そうな顔で、まじまじとシャルルの顔を見出した。


「お嬢さん、何処かで見た顔ね。何処で見たのかしら……そうそう、アルファンドの━━」

「あ、フラムさん、聞き込みも終わったし、早く行きましょう! さあ! さあ!」


 シャルルは慌ててフラムの背中を押して花屋から離れて行く。


「ちょっと、シャルル、急にどうしたのよ? あんた何か隠してない?」

「いえいえ何も隠していませんよ」

「怪しいでヤンス」

「パルさんまで何をおっしゃるんですか」


 フラムとパルの猜疑心(さいぎしん)に満ちた目がシャルルに突き刺さる。


「まあいいわ。それにしても、花がある場所を聞き出すだけでこれだけ時間が掛かるなんて、先が思いやられるわよ」


 また謝ろうとするシャルルを、フラムが止める。


「だから、それが余計なのよ。時間がかかりそうだから、早くアレリア山に行きましょう」

「そうですね」

「ちょっと待つでヤンス。何か来るでヤンスよ」


 軽い地響きを感じ始めるとともに、ゴゴゴッと言う物音がし始めた。


「道を開けろ! ボロンゴの群れだ!!」


 誰かの叫び声を皮切りに、通りに居る人々が騒然となり、建物の中に慌てて非難する者、路地裏に駆け込む者と、通りから姿を消して行く。

 それでも遅れた者は、砂煙を上げて猛然と駆けて来たボロンゴの群れに飲み込まれて行く。


「さすがにあの数じゃあ、直ぐに対処は無理そうね。私達も逃げるわよ」


 慌ててその場を離れたのだが、


「フラム、シャルルが居ないでヤンスよ」

「居ない?」


 辺りを見廻すと、何故か駆け去って行くボロンゴの群れの中ほどの上に、座ったまま運ばれて行くシャルルの姿があった。


「フラムさん、パルさん、助けて下さい!」

「どうやったらそうなるのよ!」

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