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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第三章 氷の国

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 第一話 逃走

 ダルメキアの北部にあるコンヘラルド地方は、寒冷地で氷の国と呼ばれていた。


「久々に来るけど、相変わらず寒いわね」

「体の震えが止まらないでヤンス」


 周りに雪が積もる一本道を歩くフラムとその肩にとまっているパルは、防寒着姿ではあるが、それでも寒さが身に染みる。


「でも、何で飛んだままアルファンド城まで行かなかったでヤンス? フィールは耐性がないからダメにしても、サウロンなら行けたでヤンスよ」

「バカ言わないで。歩いていてこんなに寒いのに、上空を飛んで行ったら、凍え死んじゃうでしょう」

「ああ、確かにそうでヤンスね」


 やがてアルファンド城と、その周りに広がる城下町、更にそれを取り囲む城壁が見えて来たのだが、


「あれ、どうしたのかしら? 城門が閉まってる」


 高さ十メートルを超える大きな城門が閉じており、城門の前で外から中に入りたい人々と警備兵らしき数人が、押し問答している。


「どうして中に入れないんだ!」

「今は非常事態なんだ。もう少し待ってくれ」


 随分と待たされているのか、気が立っている人々を(なだ)めるのに警備兵達は苦慮している。


「お城で何かあったのかしら……」

「でもどうするでヤンス? この様子だとしばらくは入れそうにないでヤンスよ」

「正面がダメなら入れる場所を探すまでよ」


 フラムは城壁伝いに歩き始め、城門からかなり外れた人気のない所で足を止めた。


「ここら辺でいいわね」

「大丈夫でヤンスか? 見つかれば捕まるかも知れないでヤンスよ」

「その時はその時よ」


 ゆっくりとその場にしゃがみ、右手を地に伸ばす。しかし、


「おい、そこの女、そこで何をしている?」


 巡廻していたのか、二人の兵士が遠くから駆け寄って来る。


「ほら、だから言ったでヤンスよ」

「まだ何もしてないわよ」

「ここで何をしている?」

「ただ歩いていただけですけど」

「歩いていただけ? こんな所をか?」


 周りには雪積もる草地が広がるだけの殺風景な場所だ。


「怪しい奴だ。ちょっと来てもらおうか」


 兵士達が近付いて来てフラムに手を伸ばす。

 止むを得ず、フラムが剣の柄に手を掛けた丁度その時、


「退いて下さ~い!!」


 上空から降って来たその声に、その場の全員の目が上に向いた。

 錫杖(しゃくじょう)を持った長い髪の少女が、ドゥーブと言う魔獣を抱えて上空から落ちて来ていた。

 フラムは反射的に躱したが、二人の兵士の上にドゥーブを向けた少女がまともに落下した。


「痛、た、た、た……」


 少女はドゥーブでバウンドしてから地上に落ちた為、打ち付けたお尻を(さす)るだけで済んだが、兵士達は完全に気を失っていた。


「おかげで助かったわ。それにしても……」


 フラムが見上げた遥か上の城壁の上から数人の兵士が慌てた表情で下を覗き込んでいる。


「幾らドゥーブが居るからって、あそこから落ちるなんて無茶するわね━━あれ?」


 上を見上げるまで目の前に居た少女は、ドゥーブに乗って遠くに見える森に向かって駆け去っている所だった。


「いつの間に? ちょっと待ちなさいって!」


 フラムも慌ててその後を追って駆け出す。


「何でフラムまで逃げるでヤンス?」

「あのまま残っても捕まるだけでしょう」

「それで、何であの子を追ってるでヤンス?」

「あの子が着てた防寒着、結構高そうなものだったでしょう。それにあの錫杖も、そこらで売っているような安物じゃなかったわ。恐らく特注品よ」

「あの一瞬で凄い洞察力でヤンス」

「何か訳ありっぽいから、あの子にはお金の臭いがプンプンするのよ」

「お金となると、フラムは鼻が利くでヤンスからね」

「その事に関しては異存はないわ」


 先に森の中に消えて行った少女に続いて、フラムも森の中に入った。


「何処に行ったのかしら……」


 当てもなく森の中を歩いていると、


魔獣召喚陣(アルシオンボルトーア)!」


 前方の方に光が見えると共に女性の声が飛んで来た。

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