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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第二章 里帰り

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 第十九話 依頼完了

「あれ、ライジャットはもういいの?」


 ライジャットはまだ地に伏したままだ。


「手負いの魔獣を斬っても何の意味もない」

「また剣を向けたら本当に斬ってやろうと思ったのに」


 半分冗談のつもりで返した言葉だが、ライオの表情は変わらない。


「それにしても、特異質でもあるのか。お前、名前は?」

「そう言う時は、自分から名乗るもんじゃないの?」

「……俺はライオだ」

「嫌に素直ね。ま、あんたの名前は一度聞いてて知ってたけど。私はフラムよ」

「覚えておこう」


 それだけ言い残して、ライオは何処へとなく去って行った。


「本当にキザな奴ね」

「でヤンスね」


 パルがフラムの肩に戻って来た。

 根拠はなかったが、フラムは何処かでまたライオに会うような気がしていた。それがどう言う形であれ……。

 フラムも剣を鞘に納め、向きを変えると、伏せているライジャットに向かって歩み出した。


「フラム、何をする気でヤンス? 危ないでヤンスよ」


 パルが危惧するように、ライジャットは敵意むき出しでフラムに唸り声を上げている。

 それでもフラムは構わず歩み寄って行く。


「大丈夫、何もしないから」


 しゃがみ込み、ライジャットにゆっくりと手を伸ばす。

 先に足元に寄って来た子供のライジャットが、フラムの足元を舐め始めると、ようやくライジャットの警戒も解け、伸ばしたフラムの手を舐め始めた。


「ゴメンね。牙は貰っていくけど、この依頼が終わったら、あなたを狙う人間は減るはずだから。この子が大きくなるまで頑張ってね。その時は容赦しないから」

「それは冗談でヤンスか?」

「いえ、本気よ。独り立ちすれば、それは対等って事よ。師匠の教えでもあるしね。さあ、これで全部揃ったし、戻りましょう」


 フラムは立ち上がる。しかし、


「あれ、でも何か忘れているような……」

「確かに、でヤンス。何でヤンス……」

「まあ、いっか」


 その頃、イグニアは森の中を彷徨(さまよ)っていた。


「もう、ライジャットは何処に居るのよ!!」




 フィールに乗ってベルデュールの町に戻ったフラムは、へとへとになりながらダニャーレに向かった。


「おおフラム、戻ったのか。どうだった?」

「これでいいんでしょう」


 カウンターの上に、大きな布袋を置いた。

 店主のヴェルテスが袋の口を開けると、その中には、腐食しないように凍らせたフリゴメの髭とリンディアの尻尾、そしてライジャットの牙が入れられている。


「ほう、さすがはフラム。やってのけたのか」

「大変だったわよ。二度とこんな依頼はゴメンだわ」

「オイラもこき使われたでヤンス」

「それに、イグニアにも依頼書を渡しているしね」

「いや、あれはだな……」

「まあ、その御蔭で助かった所もあるけど」

「だろう」

 

 とは言いつつ、向けられているフラムの冷ややかな目に、ヴェルテスは慌てて目を泳がせる。


「報酬が報酬じゃなかったら、やってらんないわよ」

「報酬はちゃんとお前の口座に入れておいてやるよ。ちゃんと番号だけは書いておけよ。それより、ヴァルカン様の依頼は終わったのか?」

「いいえ。もう体がへとへとで、そんな余力も全くないわ。とりあえず一日ゆっくりと休ませて貰わないと」

「オイラも腹が減ってとても動けないでヤンス」

「相当きつかったみたいだな。まあ、その依頼なら当然か。とりあえず、依頼は完了だな」


 ヴェルテスは、フラムから受け取った依頼書に、完済の判を押した。

 フラムはそのあとパルと共に食事を済ませ、宿屋で爆睡したのは言うまでもない。

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