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炎の魔獣召喚士  作者: 平岡春太
 第二章 里帰り

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 第十七話 守るべきもの

 フラムの背後にある茂みから、大きな黒い影が飛び出して来て、フラムに襲い掛かって来た。姿を現したのは、雷魔獣のライジャットだ。

 素早く反転したパルが炎を吐いた事で、ライジャットはフラムの頭上を飛び越えていっただけだった。


「ありがとう、パル。助かったわ。それにしても、まったく気配を感じなかった」

「オイラも寸前まで気付かなかったでヤンス」

「恐らく、素早過ぎて、気配を感じるまでに近付いてるって事か。それにあの見た目、やっぱり普通のライジャットじゃあなさそうね」


 フラムの前方で身を低くして唸り声を上げているライジャットは、普通のライジャットには見られない異常に長い二本の牙が覗いている。更にその体には、かなりの修羅場を潜り抜けたと見える無数の傷が見られた。

 フラムが剣を抜くのに合わせて、ライジャットは直ぐ傍の茂みの中に身を隠す。


「真っ向から来ない所からして、頭もいいようね。パル!」

「任せるでヤンス」


 飛び立ったパルは、ライジャットが飛び込んだ茂みに炎を吹き付ける。更に周りにある茂みも次々と火を付けて行く。


「くれぐれも火事にはしないでね」

「分かってるでヤンスよ」

「これで身を隠す場所はなくなったわよ。さあ、早く出て来なさい」


 フラムは一つ見落としていた。それが油断を生んだ。


「フラム、上でヤンス!!」


 フラムが見上げた時には、木から落ちて来たライジャットが目の前に迫っていた。

 剣を振るう間もなく、今度は助けてくれるパルも肩には居ない。思わず目を閉じたフラムの耳に飛び込んで来たのは、激しい金属音だった。

 目を開けたフラムの目の前には、ライジャットの大きな牙に剣を合わせるライオの姿があった。


「いつの間に? いや、それより早く離れないと!」


 言うより早くライジャットの体全体がスパークを始め、合わせる剣を伝ってライオの体に激しい電撃が流れ込む。

 ライオの体からも(ほとばし)るスパークに、近くに立つフラムは思わず後退る。しかし、電撃を受けている当のライオは微動だにせず、それどころか剣を振るってライジャットの牙を一本斬り落とした。

 ライジャットは少し距離を取り、また身を低くして対峙する。


「それを持ってさっさと森を出ろ」


 ライオは落ちているライジャットの牙を(あご)示唆(しさ)する。


「それよりもライジャットの電撃を受けて大丈夫なの?」

「俺には雷撃に耐性がある」

「耐性って、魔獣でもあるまいし。あ!」


 二人の会話の合間を見て、ライジャットは逃げ出してしまった。

 ライオは剣を鞘に納め、直ぐに後を追う。


「どうするでヤンス?」


 パルが肩に戻って来た。


「牙は手に入ったけど、このままはいサヨウナラって訳にはいかないでしょう」

「手伝うでヤンスか?」

「状況次第ね。ああいうタイプは、普通に手を貸したら逆ギレしそうだし」

「確かに、でヤンスね」


 フラムもまた剣を鞘に納め、後を追う。


 先に後を追ったライオは、逃げたライジャットを見つけ、再び剣を抜いていた。身を低くして唸り声を上げているライジャットに向かって駆け出した。

 ライジャットも身を構えるが、ライオの剣を受け止めたのはライジャットの牙ではなかった。


「どういうつもりだ?」


 後を追って来たフラムが、ライオの剣を受け止めていた。


「あんたにはあれが見えないの?」


 ライジャットの後ろには、小さな子供のライジャットの姿があった。


「それがどうした?」

「やっぱり分かってて斬ろうとしたのね。今、親の方を殺せば、あの子供は絶対に死んでしまうわ。せめてあの子が親離れするまで待てないの?」

「何の為に? どうせ殺すなら、血気盛んな今の方が力試しにはいいだろう」

「あんたには親はいないの? 子を守る親の気持ちが分からないっての」

「気持ち? さあな。なら訊くが、お前は今まで魔獣を殺した事がないのか?」


 フラムは少し口籠もる。


「いいえ、だから綺麗事になるかもしれないけど、少なくともあんたみたいにやたら目ったら殺してきたつもりはないわよ」

「俺もやたらに殺してきた訳じゃない。まあ、俺は綺麗事を言うつもりはない。時間の無駄だ。邪魔をするというなら、排除するまでだ」


 ライオの剣がスパークを始める。しかしそれに合わせて、フラムの剣も炎で包まれた。


「何!?」


 更にパルがライオに向かって炎を吐いたのを見てライオは飛び退って距離を取る。


「お前一体何者だ?」

「さあね。ただ単にあんたと同じ技が使えるってこと。私はまだ、安定して使えないけどね」


 その言葉の通り、フラムの剣の炎は直ぐに消えてしまった。


「簡単に使える技ではないぞ」

「知ってるわよ」


 その時、何処からともなく獣の咆哮が聞こえて来た。その声に、ライジャットが異常な警戒感を見せる。


「何の声?」

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