第十六話 アリューシャの森
「すかしてんじゃねえぞ!!」
集まった男達も次々と剣を抜き、ライオに向かって駆け出した。
ライオは全く動かず、一人が振るって来た剣を剣で受け止めた。すると、男の方は雷魔獣の電撃を受けたかのように体を震わせて倒れ、体から白煙を上げて、それ以上立ち上がる事はなかった。
構わずに一人、また一人とライオに斬り掛かるが、剣を合わせた途端に同じ様に倒れ、動かなくなってしまった。
殆どの者が倒れ伏すのに、そう時間は掛からなかった。
残った数人も、苦虫を嚙み潰した様な顔でライオを睨み付けていたが、
「覚えてろよ!」
と在り来たりな台詞を吐き捨てて、その場から駆け去って行った。
ライオも剣を鞘に納め、歩み出す。
「ちょ━━」
フラムは呼び止めようとするのを飲み込んだ。
「今の技、ご主人が使っていた技に似てたでヤンス」
「炎と雷の違いはあれ、きっと同じ技よ。魔獣の属性の力を剣に込めて使うなんて技、他にないでしょうからね」
「一体何者なのかしらね?」
「本当に━━わ!? いつの間に……」
遠目で見ていたはずのイグニアが、いつの間にか直ぐ後ろに立っていた。
「一緒に食事していたみたいだけど、知り合いなの?」
「違うわよ。単なる相席相手よ」
丁度その時、イグニアのお腹が鳴る。
「忘れてたわ。私もお腹が空いてたんだっけ」
イグニアはまた店の中に駆け込んで行った。
フラムは呆れたように首を振りながら、ライオが去って行った方に目を向けた。
「本当に何者なんだろう……」
この日は日が暮れて来た事もあって、近くの宿屋に泊まる事にした。
翌朝、宿屋の主人から、アリューシャの森が近くにあると聞き、パルを肩に乗せて歩いて向かっているのだが、その足取りは重く。
「何であんたが付いて来てんのよ」
「目的が一緒なんだからそうなるでしょう」
隣にイグニアが歩いているせいで。
「本当に暇なのね」
「でヤンスね」
フラムとパルの溜息が揃う。
「誰が暇ですって。勝手に決めないでよね。私はあんたに一泡吹かすのが第一目標なの。ようやく見つけたんだから、絶対に逃がさないわよ」
「まあ、それはいいとして、今度は帰った方がいいわよ。普通のライジャットでもかなり手強い魔獣なのに、今までの事を考えたら並みのライジャットとも思えないし、炎魔獣しか召喚する事が出来ないあんたじゃあ、身の危険もありうるわよ」
「余計なお世話よ。ライジャットだろうが、ランボルトだろうが、蹴散らしてやるわよ。第一、あんたに心配されたくないわね」
「何を言っても無駄みたいね」
フラムとパルは呆れ顔を見合わせる。
やがて教えて貰ったアリューシャの森らしき深い森の中に入った。
「さあ、ここからは勝負よ」
イグニアはそそくさと森の奥の方に駆け去って行った。
「どうなっても知らないわよ」
フラムはイグニアとは違う方向へ歩み出す。
「結構広そうだけど、何処にいるのかしら」
「フラム、あっちから声が聞こえるでヤンス」
「ライジャット?」
「一つでないでヤンス。人の声もするし、魔獣らしき声もするでヤンス」
「あのライオとか言う男かしら。先を越されたら大変だわ。とにかく急ぎましょう」
パルの指示に従って、フラムは声が聞こえると言う方に向かって急いだ。
急ぐその先から、閃く光が見えると共に、フラムの耳にも聞こえる人の悲鳴が聞こえて来た。ただ、閃く光も人の悲鳴も一つではなく、次々と聞こえて来る。
「これって……!」
人が倒れている。それも一人だけではなく、木々の間から覗いて見えるだけでも複数人。
その数人の顔にフラムは見覚えがあった。昨日ライオに絡んでいた男達だ。
「性懲りもなく、仕返しに来たのね。だとしたらあの男が……違う。この傷は剣の傷じゃ━━」
「フラム、後ろでヤンス!」




