第十四話 キザ男
フィールの背に乗り、海の上を飛んでいるフラムは、大きな溜息を吐き出した。
「やっと三つ目まで来たわ。あとはゾーレ大陸にあるアリューシャの森に居るライジャットの牙だったわよね。今までの事を考えると、嫌な予感しかしないけど」
「じゃあ、止めるでヤンスか?」
肩に乗るパルが聞く。
「冗談、こんなに大変な思いまでしたのに、ちゃんと報酬はいただきますからね」
「やっぱりお金でヤンスか」
「当然でしょう。ほら、見えて来たわよ」
フィールが飛ぶ先に、大きな陸地が見えて来た。それは見る間に大きく迫り、大陸の上空に入った。
「ここら辺に来るのは初めてなのよね。アリューシャの森の場所も分からないし、何処かで聞き込みでもしないと」
「だったら町を探すでヤンス。お腹が減ったでヤンスよ」
「あんたはいつもそれね……ん、何かしらあれ?」
下に広がる森の中に、何度となく現れては消える強い光が見える。
フラムは少し離れた森の中にフィールを下ろし、地面に降りてから召喚陣を作り、その光の中にフィールを戻してから召喚陣を消した。
「確かこの辺りだったと思うんだけど……」
光が見えた辺りを頼りに森の中を歩いていると、人ではない悲鳴が聞こえて来る。そちらに向かうと、上空で見えた付いたり消えたりする強い光が遠くに見える。
更に奥に歩みを進めようとした時、木々の間から何かが飛び出して来た。
危険を感じたフラムは咄嗟に剣を抜いた。その剣に咬みついて来たのは、雷魔獣のライディオスだった。
危機一髪でその牙を回避したものの、ライディオスの体がスパークを始める。
「しまった!」
慌ててパルが口を開くが、間に合いそうにない。
「止めろ、ライディオス!」
突然飛んで来た男の声に、ライディオスのスパークは収まり、飛び退ってフラムから少し離れる。すると、その後方の木々の間から、剣を手にした男が姿を見せた。
「そいつは違う。ここはもう片付いたから行くぞ」
男はライディオスを連れて行こうとするが、
「ちょっと、待ちなさいよ!」
フラムの怒鳴り声に足が止まる。
「そのライディオスって、あんたが召喚した魔獣なのよね? 私を殺そうとしたのよ。何も言わずにハイさよならって言うのは、失礼なんじゃないの?」
「ちゃんと止めただろう」
「それは私がギリギリの所で剣で止めたからでしょう。普通の人間なら死んでるわよ」
「自慢か?」
「そう言う事じゃなくて━━あ、ちょっと!」
男は無視するように行ってしまった。
「何なのよ、あのキザ男は!」
「確かに、フリードとはまた違ったキザでヤンス」
「そもそもこんな所で何をしてたのよ、まったく」
フラムは愚痴を溢しつつ男が現れた木々の間へと歩いて行ったが、直ぐに足が止まり、その顔は驚きの表情に満たされる。
「これって……!?」
「凄いでヤンス……」
木々が乱立して見え難いが、辺りに多くの同じ魔獣が倒れているのが分かる。その数は分かるだけでも十は超えている。
「風魔獣のディアンゴの群れを、いくら相性がいいライディオスが居るからって一人で相手をしてたっての……?」
少し気になったのもあって、フラムは男が消えた方に向かって歩き出した。
暫く歩くと森を抜け、多くの建物が立ち並ぶ町の入り口に辿り着いた。
「エデルチェか」
入り口に掲げている看板にそう書かれている。町の名前だろう。
「フラム、お腹が減ったでヤンス」
「分かってるわよ」
パルだけでなくフラム自身も腹が減っていて、取り敢えず食事が出来る店を探す事にした。
町の中は人通りは余り少なく、どことなく前に訪れたバルバゴと言う村に似ている。幸い直ぐに食事が出来る店を見つけ、中に入った。
店の中は外と違い、多くの人で賑わっていた。
「フラム、あいつが居るでヤンスよ」
「あいつ?」
さすがにライディオスは居ないが、森の中で出会ったキザ男が、テーブルに一人で食事を取っていた。
女性の店員が直ぐにフラムに気付き、寄って来た。
「一人?」
「一人と一匹でヤンス」
「ま、魔獣が喋った!?」
店員だけでなく、近くの客も食べ物や飲み物を吹き出したり、喉を詰まらせたりして驚いていたが、パルの姿に害がなさそうなのを察したのか、直ぐに食事を取り始めた。
店員も気を取り直す。
「ごめんなさいね。今席が一杯で。相席で良ければ食事は用意出来るわよ」
断って別の店を探す事も考えたが、店に充満する良い匂いと空腹には勝てず、相席を了承したのだが、勧められた席はあのキザ男が食事する席だった。




