第十三話 地の魔獣召喚士
「あれはガリュートじゃ」
「ガリュート!?」
フラムとパルが揃って驚きの声を上げる。
「無属性の中でも上位魔獣のガリュートが何で?」
「何処ぞの馬鹿が召喚して、殺されたか逃げたかして野生化したのじゃろう。儂がここに来た時には、この島のヌシとなっておったわ。刺激しなければ大人しくしておるから放っておいたのじゃが、何処ぞの馬鹿が刺激しおったかの」
「このタイミングで刺激するって言ったら、一人しかいないわね」
「でヤンス」
森の奥の方から木々が薙ぎ倒される音が近付いて来る。それと共に、聞き覚えのある悲鳴も近付いて来る。
「何であんな所にガリュートが居るのよ!!」
必死でフラム達の方に向かって駆けて来るイグニアの姿が見えた。更にその後ろには、周りの木々を薙ぎ倒しながらイグニアを追って来る巨大な魔獣の姿もある。
「仕様がないのお」
ルシェールが少し前に出てしゃがみ、地面に左手を下ろす。
「アルシオンボルトーア!」
少し大きな魔獣召喚陣が現れ、光を放つ。
立ち上がったルシェールは召喚陣を前にして印を組む。
「魔界に住みし地の魔獣よ。開かれし門を潜り出でて我が命に従え」
フラムの印が形を変える。
「出でよ、地魔獣ガンダルド!」
召喚陣の光が増し、その中からガリュートよりも遥かに大きな体を持つ地魔獣が姿を現した。
「こ、こ、今度はガンダルド!?」
前方に突如現れたガンダルドに、イグニアは慌てて向きを変え、横の木々の間に逃げ込む。
ガリュートも向きを変えようとしたが、ガンダルドが咆哮を上げると身を震わし、背を向けて慌てて駆け去って行った。
ルシェールはガンダルドを召喚陣の光の中に戻し、印を解いて召喚陣を消した。
「あ~、死ぬかと思った……」
木の陰から姿を見せたイグニアの息は荒く、木に手をついて整える。
「バカね、ガリュートを刺激するからよ」
「仕方ないじゃないの。飛ばされた先にガリュートが居たんだから」
「相変わらず運がないのね」
「でヤンスね」
「うるさい娘じゃのぉ。誰なんじゃ?」
「知りません」
「でヤンス」
「そっちこそ誰なのよ。いきなりガンダルドなんか召喚して。びっくりするじゃないのよ」
ようやく息が整ったのか、イグニアは剣幕を立ててルシェールに歩み寄る。
「せっかく助けてやったのに、何でこっちが怒られなけれなならんのじゃ?」
「誰も助けてくれとは言ってないわよ」
「おいフラム、そこで笑っとらんで、何とかせんか」
二人の遣り取りに、フラムとパルはクスクスと含み笑いしている。
「ルシェール様が困っておられる姿はなかなか見られないと思って」
「馬鹿もん! お前が幼少の頃はもっと困らされとったわい」
「そうだったでヤンス」
そんな事はないとフラムが口を尖らせた時、
「ちょっと待って! 今ルシェール様って言った?」
イグニアが血相を変えて声を上げた。
「ルシェール様って、もしかしてあの五賢人の?」
「そこらの魔獣召喚士がガンダルドを召喚する事が出来ると思う?」
「じゃあ本当にあの地の魔獣召喚士の?」
「でヤンスよ」
イグニアは慌てて少し下がり、ルシェールの前で土下座する。
「数々のご無礼、申し訳ございません!」
謝るのもそこそこに、すぐさま立ち上がり、今度はルシェールに迫ってその手を取る。
「こんな所でお会いできるなんて光栄です!」
「コラ、手を離さんか。フラム、どうにか━━ん?」
先程まで立っていた場所にフラムの姿がない。
上空を見上げると、いつ召喚したのか、フィールの背に乗るフラムの姿があった。
「ルシェール様、この島に居るならまた会いに来ますよ!」
「コラ、この娘を何とかしていかんか!」
ルシェールの怒鳴り声を聞いてか聞かずか、フラムは手を振りながらフィールに乗って去って行った。




